上質の基本稽古

上質の基本稽古(佐山正之)

2022年3月21日

KENDOJIDAI 2022.2

素振り、打ち込み、切り返し。平素から基本稽古を地道に繰り返すことが上達の近道と言われているが、その方法に瑕疵があったら一大事。基本稽古は応用につながってこそ基本である。質の高い基本稽古を一流剣道家から学ぶ。

構成=寺岡智之
撮影=笹井タカマサ

佐山正之教士は、最難関と言われる八段審査に今秋はじめて挑戦し、一発合格を果たした。「ご指導いただいた先生方の基本に対する考え方が、合格につながった」と語る佐山教士に、これまでの剣歴を振り返りながら基本の重要性についてお話をうかがった―。

佐山正之教士八段

さやま・まさゆき/昭和48年生まれ、栃木県出身。6歳のときに岩舟町少年剣友会で剣道をはじめる。栃木農業高校から酪農学園大学に進み、卒業後は郷里に戻り家業のいちご農家を継ぐ。出身道場での少年指導のほか、稽古会に足繁く通い、本年11月の八段審査に合格

相模先生に教わった刀の観念

 私は6歳のときに、父が指導者を務める岩舟町少年剣友会で剣道をはじめました。中学までの実績はほとんどなく、高校もいずれ家業のいちご農家を継ぐことを考えて農業高校を選択。部員も少なく団体戦に出場するのもままならない剣道部であり、ここでも大きな大会に出るようなことはありませんした。ただ、中学時代も高校時代も、ご指導いただいた先生が勝ち負けよりも美しさであったり楽しさを提示してくれる方々だったので、剣道をやめることなく続けてこられたのだと思います。

 そんな私に大きな転機が訪れたのは、大学2年のころでした。北海道の酪農学園大学で剣道を続けていたわけですが、たまたま講習会で、北海道大学医学部で師範を務められていた相模憲正先生と出会う機会に恵まれました。相模先生は菅原恵三郎先生(範士八段)の弟子であり、相模先生から北大医学部の稽古にも誘っていただいて、酪農学園大と北海道大医学部の2カ所で稽古をするようになりました。

 相模先生のご指導で、私の剣道観はまったくと言っていいほど変わったと思います。刃引きの刀を使用して、理合や刀法など、剣道の本質的な部分を教えていただきました。稽古を重ねるにつれてどんどんと剣道に興味が湧いていき、大学の4年間で、相模先生の教えをすべて学んでいきたいと思うようになりました。

 相模先生に出会うまでの私は、正しくとか美しくという指導を受けていても、実際それがどういうことなのか分かっていなかったのだと思います。ただただ、楽しく剣道をしている学生だったわけです。それが、相模先生の理論的な指導を通して、本当の意味での剣道を知ることができました。一つが分かると次が知りたくなり、そうやってどんどんと剣道にのめり込んでいきました。

 大学卒業時は、家業のいちご農家ではなくサラリーマンになることも考えましたが、選択の一番の理由となったのはやはり剣道でした。相模先生に一緒に指導を受けていたのちの妻に「サラリーマンになったら剣道は土日しかできなくなる。そこまで剣道をしたいのなら、農家を継いだ方がいい」とアドバイスをもらい、郷里にもどって家業を継ぐことを決意しました。

「攻め・溜め・打ち切る」を意識し、基本稽古の繰り返しで地力をつけた



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