攻め

相手を動かして打て(氏家道男)

2022年12月5日

KENDOJIDAI 2021.12

構成=寺岡智之
写真=笹井タカマサ

「相手を動かすには、自分が動かないことです」と、氏家道男範士は言う。この禅問答のような言葉の本質はどこにあるのか。相手を動かして打つために、氏家範士が理想としている攻めとその手順についてうかがったー。

氏家道男範士八段

うじいえ・みちお/昭和26年生まれ、宮城県出身。小牛田農林高校から国士舘大学に進み、卒業後は同大学に残り研究を続ける。剣道部監督職を経て、平成17年に剣道部長に就任。主な実績として、全日本選手権大会3位、世界選手権大会出場、全国教職員大会個人優勝、全日本選抜八段優勝大会2位などがある。国士舘大学体育学部武道学科教授。剣道範士八段

 このたびいただいたテーマは「相手を動かして打つ」ということですが、これができれば剣道を卒業してもよいのかもしれませんね。私自身、相手を動かすことを求めて日々の稽古に取り組んではいますけれども、なかなかうまくはいかない。いわゆる〝勝って打つ〟ということなのでしょうが、これが剣道で一番難しいことなのかもしれません。

 相手を動かすことを意識的にできるようになったとしたら、それはどんな場面においても主導権を握れるということになります。これは剣道においては非常に有利であり、相手を自在に遣うことが可能になります。ですが、それは剣道における究極の目的とも言えるでしょう。先ほど、これができたら剣道を卒業してもよいと言ったのは、この技術が極意であり、今もこの先も、これといった確信的な技術の習得が適わないことが分かっているからです。

 とはいえ、これまで経験した立合の中では、相手を動かしたと感じられる瞬間は幾度もありましたし、そこから一本までつなげられたことも当然あります。ただ、これは今回できたからといって、次も同じように相手を動かせるわけではありません。なぜなら、この一連の動作は、すべて無意識の中で行なわれていることがほとんどだからです。

 この無意識に相手を動かすという技術を身につけていくためには、自分なりの手順を日々の稽古において繰り返していく必要があります。その繰り返しによって、意識していたものが染みついていき、無意識の状態でも自然と身体が動くようになっていくわけです。

「こうやって崩そう」などという意識があるうちは、本当の意味での崩しはできていないのではないでしょうか。学生を相手にしていて感じることは、同じ攻めで動く相手もいれば、動かない相手もいる。ですから、動かす方法論というのは相手によって千差万別、十人十色であるということです。さまざまな動かし方がありますし、そのなかで、私は私なりの方法論と手順で、相手を動かすことを実践しているということになります。

行くぞ行くぞの剣道から、相手を引き出す剣道へ



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