2022.10 KENDOJIDAI
構成=寺岡智之
写真=西口邦彦
昨今、非常に厳しい合格率となっている八段審査において、そのハードルをくぐりぬけて今春合格を果たしたのが齋藤祐一教士だ。齋藤教士は「攻め方を変えたことが合格につながった」と言う。それまで感覚に頼っていた攻めを理論立てて考えるようになると、相手の隙が見えてくるようになった。齋藤教士が実践する隙をつくり出す攻め方とは―。
齋藤祐一教士八段
待って相手に合わせるのはなく自分から攻めて隙をつくり出した
今春の審査で11回目の挑戦にして八段に合格させていただきました。合格してみて感じるのは、これまでの立合とはまったく違う手応えであったということです。前10回の中でも、自分なりに良いところがあったと感じる立合は何度かありましたが、それが勘違いであったことが今回の審査でよく分かりました。
合格をいただけなかった立合を振り返ってみると、そのほとんどは審査員に自分を良く見せようとし過ぎていたなと感じます。今回はそんな気持ちを捨て、普段の自分を出すことを意識しました。その結果、相手に集中することができ、自分が積み上げてきた剣道をそのまま披露することができたと思います。これまで1次審査を通過したこともなく、今回が初の2次審査だったわけですが、1次審査を終えて待っている間も、お相手の方がどのような剣道をされるのか楽しみに感じていました。こう思うことができたのも、気持ちの面でリラックスができていたからでしょう。
私は八段審査を46歳から受け始めました。当初は2、3回も受ければ合格できるだろうという甘い気持ちがありました。しかし、何度か挑戦しているうちに名だたる先生方が不合格になっているのを目の当たりにして、これは自分も難しいのではないかと不安に思うことも多くなっていきました。審査は2日目に受けることが多かったのですが、初日の合格率の低さを見ては、今回もダメだろうなと審査の前から心が折れている状況だったように思います。
そんな反省もあり、今回は相手に集中することだけを考えて受験をすることにしました。余計なことを考えず、まっさらな気持ちで審査に臨むことができたのが、良い方向へとむかったのかなと感じています。立合においても打ち急ぐことなく、相手の反応や動きがよく見えました。まっすぐ打とうと意識し過ぎず、表、裏といつも通りに剣をつかって立ち合うことができたのも、合格の理由の一つだったのだろうと、今振り返って思います。
今回のテーマである「隙をとらえる」ことと、私の八段審査への挑戦を重ね合わせてみると、一つ共通点として感じるのは打つタイミングの違いです。さまざまな先生方からアドバイスをいただく中で、自分の心に迷いのようなものが生じていました。「そんなに手数を出してはいけない」と言われたことで、先をかけて攻めることをおろそかにし、いわゆる〝待ち剣〟になっていた部分もあったかと思います。剣道は先をかけて攻めなければ隙をつくり出すことはできません。それまでの私は隙をとらえるのではなく、相手に合わせていただけなのだと思います。
今回の受験にあたっては、江戸川区剣道連盟の師範である中田琇士先生や、長年懇意にさせていただいている冨永哲雄先生に立合を見ていただき、そういった面を修正することができました。先をかけて攻めることによって相手を動かし、隙をつくり出すことができていたのではないかと思います。冨永先生からは、「打ち急がない」ということを稽古のたびにご指導いただきました。打ち急がないことと相手の打突を待つことは大きく違います。万全の体勢で相手と対峙し、自分の機会ではない場面では極力手を出さないこと。反対に考えれば、自分の機会をつくり出すために先をかけて攻めること。今回の審査ではこれが実践できていたので機会を多く得ることができ、自分なりに手応えの得られる一本につながっていったのかなと感じています。
感覚に頼った剣道から理論に基づいた剣道へと変化
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