KendoJIDAI 2023.6
構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦
木和田大起、大城戸知、升田 良。大阪府警の主力選手として日本代表にも名を連ねた3名は、自分にとって最適の足さばきとはどのようなものか。足さばきの重要性について語り合ってもらった。
木和田大起
きわだ・だいき/昭和53年生まれ、三重県出身。三重高校から中央大学へと進学し、卒業後、大阪府警察に奉職する。主な戦績として、全日本選手権優勝、世界選手権団体優勝、全国警察選手権優勝、全日本選抜七段選手権3位などがある。現在は大阪府警住吉警察署で剣道教師を務める
大城戸知
おおきど・さとる/昭和59年生まれ、愛媛県出身。新田高校から鹿屋体育大学に進み、卒業後、大阪府警察に奉職する。主な戦績として、全日本選手権出場、世界選手権団体優勝、全国警察選手権優勝などがある。現在は大阪府警生野警察署で剣道教師を務める
升田 良
ますだ・りょう/昭和60年生まれ、愛媛県出身。新田高校から中央大学に進学し、卒業後、大阪府警察に奉職する。主な戦績として、全日本選手権出場、世界選手権団体優勝、全国警察選手権個人3位などがある。現在は大阪府警東住吉警察署で剣道教師を務める
足さばきを見直したきっかけ
ーお互いの足さばきの印象について聞かせてください。
升田:私が大阪府警に入ったころを振り返ってみると、最初は木和田先生も大城戸先生も、足さばきが巧みだなという印象ではありませんでした。そもそも、大阪府警は大柄な選手が多いので、剣道特練全体として、あまり足をさばいて戦うというようなイメージがなかったと思います。
大城戸:そうですね。私も最初は升田先生と同じ印象です。年齢を重ねていくごとに、みなさん見えないところで足を意識していたんだなと分かるようになりました。その中でも、目に見えて「この先輩の足さばきは素晴らしい」と感じたのは、やはり木和田先生ですね。
木和田:足さばきというと、一般的にはすり足が素早く遣える人というイメージがあると思います。そこだけを見た場合、私たちは、初期の段階ではそれほど巧みな足さばきをしていたわけではありません。みんな現役の最終盤になって、自分に合った足のさばき方を身につけていきました。大城戸先生は継ぎ足がとても巧みなイメージですね。小手から面、面から面とスムーズに渡れる、そこは他の人にはできない、彼独特の技術だったと思います。升田先生の印象としては、攻められたとき、もしくは攻め返すときの耐える左足というか、そこが素晴らしい。普通、攻められたらパッと下がって立て直したりするんですけど、升田先生は左足だけグッと下げて踏ん張って、そこから技が出せる。その足さばきがあったから、体格の大きい相手にも戦えていたのかなと思います。
ー足さばきを意識しはじめたのはいつごろからですか。
升田:大阪府警に入ったときですね。それなりの自信をもって大阪にきたわけですけど、入ってみたら手も足も出なくて、このままではマズいと直感しました。自分が今まで打たれなかった間合から打たれていたので、どうすれば打たれないようになるのか、打たれないために足さばきを考えるようになりました。
大城戸:私も若いころは足を遣えと言われて考えてみたんですけど、結局たどり着いたのは「遣い過ぎない」ことだったんですよね。相手に分からないように足を遣うというか。選手生活も後半になるにしたがって、そんな足さばきを考えるようになりました。そうすると、試合をしていても気持ちに余裕ができて、自分なりに納得のいく試合ができるようになっていったんです。
ー木和田先生は、世界選手権での敗退をきっかけに足さばきを見直したという話が有名ですよね。
升田:私は近くにいましたが、道場で足だけを遣って自主練をされている姿をよく拝見しました。そのあとに全日本選手権に優勝されて。
大城戸:私もイタリアの世界選手権に一緒に出させていただいたのですが、戻ってからの木和田先生の切り替えがすごく早くて。自分は個人戦での不甲斐ない結果をけっこう引きずってしまいました。
木和田:世界選手権で韓国選手に二本負けをしたとき、何が悪かったんだろうと髙鍋選手(日本代表主将)に相談したんです。そうしたら、「大起は足を遣っていない。普段から足を遣って剣道をしていないから、守り切ろうと思ったときにキツくなるんだよ」と言われました。たしかに、世界選手権では足を遣って守っているつもりだったのに、どんどんと体力を消耗してラスト1分で二本を奪われてしまった。そこで、次の全日本選手権に向けて足を強化していこうと思ったんです。
ー実際に、どんな稽古に取り組んだのでしょうか。
木和田:ポイントは守りと攻めの切り替えでした。守るだけであれば簡単ですが、守りながら攻めにつなげていくことが難しい。ここを意識して稽古に取り組みました。
升田:足を遣い出した木和田先生と稽古をすると、こちらが機会だと思って出した打突が届かないことが増えて、精神的ダメージを感じることが多くなりました。そこが劇的に変わった部分だと思います。
木和田:足さばきの稽古に取り組みはじめて、すぐに管区大会がありました。そこでリードを守り切ることができて、守る足を自分のモノにした感覚はありました。次は警察の全国大会と全日本予選までに、この足を取れる足にしなきゃいけないと思って、そこからが大変でしたね。全然マッチしなくて。どの歩幅で行けば技を殺さずに動けるんだろうとか。全日本予選を戦っているときにやっと、自分の中でしっくりきた感覚を得ることができました。
ーなるほど。大城戸先生と升田先生は、どのような足さばきを求めて稽古をするようになりましたか。
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