溜め

ためて打ち切れ(遠藤正明)

2023年11月6日

2023.10 KENDOJIDAI

撮影=西口邦彦

「ためて打ち切るには、迷いを吹っ切って打突すること。とても難しいことですが、それが本番では必要不可欠な項目です」と遠藤正明範士は強調する。剣道普遍の課題である〝ためて打ち切る〟技術を身につけるには…。

遠藤正明 範士八段

えんどう・まさあき/昭和25年福島県生まれ。会津高校卒業後、警視庁に奉職する。世界剣道大会団体優勝2回、全国警察官大会団体優勝5回・個人優勝2回、全日本選手権4回出場、全日本都道府県対抗優勝、国体優勝、全日本選抜八段優勝大会優勝、寬仁親王杯八段大会優勝など。現在、警視庁名誉師範、株式会社ベアハグ顧問、埼玉医科大学剣道部師範、正武会師範。剣道範士八段。

力を発揮するまで蓄える
知識を少しずつためて増やす

 今回は、「ため」と「打ち切る」という、テーマについて考えてみたいと思います。剣道の稽古の時に、「あなたの剣道は『ため』がない。しっかり『ため』をつくって稽古しなさい」と先生から言われたことがあると思います。私も諸先生方から、20代の頃よくそういった指導を受けました。そのころは、「ため」がないと言われても何のことやらさっぱりわからず、ただすぐに技を出さずに相手をよく見てから、技を出すことくらいしか、考えていませんでした。30代、40代、50代、60代と試合経験、稽古を重ねていく過程で「ため」ということの奥深さに少しずつ自分なりの考えが浮かぶようになりました。そのことが正しいのかどうかはわかりませんが。そこで「ため」という本来の意味を調べてみると、お金や知識などを少しずつためて増やすこと。また、力などを発揮するのをぎりぎりまで抑えて蓄えておく。将棋用語では、すぐに攻めずに相手の駒を取って持ち駒を増やしたり、攻めの拠点に駒の利きを足したりすることとあります。

 こうしてみると、剣道の中にも相通ずるものが多々あることがわかります。「ためる」には、相手をよく見る洞察力を養うことが大切でしょう。日本剣道形を思い出して下さい。打太刀が機を見て技を出し、仕太刀が打突します。この機を見てということがとても大事で、それこそが「ためる」ことにつながるのです。そして「ためる」時間が重要になります。相手と対峙してお互い相手のスキを伺い攻防をします。その中で気力、力をゆるめることなくしっかり蓄え、上虚下実、丹田に力を込め「ため」をつくります。あわせて大事なのは身体の「ため」です。特に左足に神経を集中させ、瞬時に打突出来るよう、左足に「ため」をつくっておきます。高段者ともなればこの「ため」をつくり上げる時間を短くするために稽古に工夫をこらし、稽古を重ねて行きましょう。

打ち切るとは心を残さない打突

「打ち切る」この言葉も剣道において、よく使われる用語でしょう。では、「打ち切る」とはどういう状態なのか、どうすれば出来るのか考えてみたいと思います。結論から言えば「打ち切る」とは心を残さない打突ということでしょうか。つまり心の働き、気持ちの持ちようが大きく影響する打突動作です。打った瞬間に気持ちが真空状態になること。真空状態とは、一つの迷いもなく打ち込み、一瞬、心の空白をつくることです。空白を生じさせるのは剣道において良くないことと思われますが、真空状態になると、逆にその中に空気が一瞬で充満します。すなわち剣道で言えば気力、気迫が打突前よりも瞬時に充実する。こういった状態のことを「打ち切る」また、「打ち切った」と言うことでしょう。ただ「打ち切る」ためには相当の心、気持ちの充実が必要です。いざ打突となると小手を打たれないかとか、胴を抜かれないかとか迷いが生じます。その迷いを吹っ切って打突するのは非常に大変だとおもいます。

 しかし、その打突が成功すればそこだけ一瞬、時間が止まった雰囲気になるでしょう。そういう打突が昇段審査で出せたなら、必ず合格するでしょう。今年の京都大会に私も審判、また演武者として参加しましたが、あれだけ多くの試合、立合を拝見しても、なかなか「打ち切る」打突は見れません。それだけ、このことが大変難しいことだとわかると思います。これらを学んで実践するのは、剣道の不変の課題であると認識しています。

 そのため、日々の稽古を通じ、「ため」が身につく稽古力を養うことが大切です。「ため」も「打ち切る」ことも別々のことではなく、剣道において素振りも打ち込みも全部一連のことです。そのことを念頭に置き、10年先の剣道を目指し、頑張りましょう。

手の内の作用が命
剣先に魂が宿る素振りを実践する



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