剣道のメンタル強化法

矢野宏光:剣道のメンタル強化法 vol.14 自分から出たのか。出されてしまったのか

2024年7月29日

私がこの執筆で目指したことは、単に難解な心理学研究の知識やトピックを示すのではなく、様々なレベルの剣士やアスリートが日々の中で「感じ」、「考え」、「実行」してきたことを心理学の理論と方法論に乗せながら、できるだけ具体的でわかりやすく解説することでした。各稿は、心理学の一テーマと剣道や日常場面とをリンクさせながらストーリー展開することをベースとしています。その中の一フレーズでも心に留まり、明日からの剣道の拠り所となってくれたら著者としてはこの上ない喜びです。

矢野宏光(やの・ひろみつ)

1968(昭和43)年 秋田県湯沢市生まれ。東海大学体育学部武道学科剣道コース卒業。東海大学大学院修士課程体育学研究科(運動心理学)修了。名古屋大学大学院博士後期課程教育発達科学研究科(心理学)満期退学。現在、国立大学法人高知大学教育学部門 教授。スポーツ心理学のスペシャリストとしてさまざまな競技のサポートに取り組むと同時に同大学剣道部監督。また、スウェーデン王国剣道ナショナル・チーム監督(2004~2009)など国際的にも活躍。一貫して「こころ」と「からだ」のつながりに焦点をあてた研究活動を展開。全日本東西対抗剣道大会出場(優秀試合賞1回)など。剣道教士七段。

自分から出たのか。出されてしまったのか

 年配の先生が若手に見事な打突を炸裂させています。もちろん、懸かり手はスピードや体力では決して負けていないはずなのに、どうにも歯が立たない様子。この稽古を注意深く観察しているとあることに気づきます。それは、崩れのない構えの元立ちに対して、懸かり手は勢いよく打突をしかけますが、元立ちはその勢いを引き込みながら見事に返し技を打つ。さらに、打たれてムキになって跳び込もうとする懸かり手の出がしらを元立ちは見事にとらえて「パクン」と一撃。まさに「出されてしまった」瞬間です。この状況を考えてみても、剣道において「スピード」や「パワー」が絶対ではないことが理解できます。

 そこで、今回は「タイミング」に焦点をあてながら運動心理学の視点でこれを考えてみます。タイミングを辞書で引くと「ある物事をするのに最も適した時機・瞬間」と記されています。すなわちタイミングとは「時間」のことを意味しています。剣道用語としても、距離が「間合」であるのに対して、時間は「間」と呼ばれます。また、「ためる」という表現もしばしば耳にします。この「ためる」とは、「自発的に時間をコントロールすること」に他なりません。よく「いいバッターはピッチャーの投げたボールをしっかりと引き込んで打てる」という表現を野球解説で耳にします。「ためることができる」とは、緊迫した場面でも「慌てず絶妙のタイミングをつくるために我慢できる」ことと換言できるでしょう。

 他方、多くの心理学者や生理学者によって、ストレスの強い状況での運動とパフォーマンスの関連性について研究が行なわれています。その研究結果が剣道でも起こる課題を説明するカギとなりそうなので紹介しましょう。



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