攻め

表を攻める、裏を攻める(今里学)

2024年8月5日

2024.7 KENDOJIDAI

構成=土屋智弘
撮影=西口邦彦

相手を攻め崩すには、表裏・上下と巧みな剣先さばきに、足さばきを伴った攻めが必要だ。いかに的確に攻めて、一本となる技につなげていくか。神奈川県の公立高校の教諭として、幾多の学校を全国大会へと導いている名将・今里教士に表裏の攻め、そして表裏の鎬を活かした応じ技について解説いただいた。

今里 学 教士八段

いまざと・まなぶ/昭和39年神奈川県生まれ。東海大相模高から筑波大に進み、卒業後、神奈川県立教員となる。国体、全日本都道府県大会、全国教職員大会、東西対抗大会、全日本選抜剣道八段優勝大会などに出場。現在、神奈川県立荏田高校総括教諭、全国高体連剣道専門部副部長、神奈川県剣道連盟常任理事、都岡剣友会指導部長。教士八段。

表裏上下と相手を立体的に攻める

 今回のテーマである表と裏の攻めですが、まずは基本的なことから述べさせていただきます。一つのセオリーとして「相手を立体的に攻める」ということを私自身は意識しており、生徒達にも教えています。良く剣道は「剣先の語り合いが重要」と言われますが、そのことは剣先で表を取ったり、裏を取ったり、または上から乗る、下から相手の拳を攻めたりと、その変化の中で相手の動向を予知・予測をし、気持ちの動きを察知することなのだと理解しています。すなわち立体的に攻めることで、相手の変化を誘発することが大切です。

 先日出場させていただいた全日本選抜剣道八段優勝大会などのレベルになると、中々このセオリー通りには行きませんが、高校生たちに伝えている内容を以下に述べてみます。

 まず仕掛け技に関しては、竹刀を柔らかく持っている方、逆に硬く持っている方、剣先が高めの方、低めの方と大別すると4パターンがあると思います。その中で場合分けすると、柔く握っており、剣先が低い方には上の技が有効になります。上から剣先を抑えたり、叩いたりし、その竹刀が戻ってくる前に面か突きといった技を打ちます。一方で、剣先が高めの方には裏から払って小手や面、そして巻き技も有効になるはずです。

 逆に竹刀の握りが硬い方に対しては、抑えたりしても反発して、剣がすぐに戻ってくるので、それを逆に利用することを考えます。つまり剣先が低い場合は、裏をとって、嫌ったところを表から突きか面、または、表をとって竹刀が返ってきたところを裏から面か突きを狙います。一方で剣先が高い場合は、表から竹刀に少し圧をかけて面に行くぞという風に攻めると、相手は反発して竹刀を跳ね返してくるので、小手や裏からの面や突きの機会となります。

 注意すべき点として相手が出ばな技を狙っている場合、剣先を抑えた瞬間などはこちらの隙となり、相手が打突にくることがあります。そうした場面では、こちらが剣先に何かしてから仕掛けるというのは得策ではありません。

 出ばなを捉えるのが早い選手に表だ、裏だと牽制していると、逆にそこに乗られてしまうことになります。ですから、攻め合いの中で相手の状態や狙いを読むことが大切です。自分の竹刀を手の延長のように捉えて、相手を探っていきます。

 また足さばきも重要になります。剣先を抑えて、それから打突という二拍子では遅くなり、相手に避けられたり、逆に乗られてしまうことになるでしょう。抑える時には、左足の引きつけを伴わせて、瞬時に打突に出られる準備をしておかなければなりません。

応じ技における
表鎬・裏鎬の遣い方

 仕掛け技に続いて、出ばなと応じ技について考察してみます。剣道は右手を前に構えますので、左鎬に当たる表の方が強くなります。上から表裏と抑えるようにすると表が強いのは自明です。そこで基本は表からの技となります。受けに関しても表鎬を使うことに慣れている方が大概だと思います。

 出ばな面は相手の剣先に上から乗り、瞬間的に中心を割って打つイメージで行います。一方裏から攻めると、小手が打ちやすくなりますが、相手にとっても同じように打ちやすいということを意識する必要があると思います。相手の面の軌道によっては、裏から面が有効な場合もありますが、小手を打たれるリスクを回避した攻めが効いていなければ出せません。

 応じ技についてですが、表鎬を使ったものは、すり上げ面や返し胴が想定されます。私の場合、相手がしっかりと打ち切ってくれる方ならば、返し胴を選択することが多いです。逆に打ち切らない方や身体が止まってしまう方、または返し胴を警戒して、手元を下げる方にはすり上げ面などの技が有効になります。

 裏鎬や裏の体さばきを意識する技では、小手のすり上げや抜き技が代表的なものでしょう。日本剣道形で言えば、二本目、四本目、六本目、小太刀の二本目も裏への体さばきを使った技になります。日本剣道形は裏への体さばきを重視した技が多いのも特徴です。剣道における玄妙な技というのを考えると、日本剣道形の裏鎬を使い、左にさばく技は参考になり、竹刀剣道にも応用すべきものでしょう。

 相手に裏の抜きやすり上げをされると、仕掛けた側は技がすっぽ抜けた感じになります。自身の体が左にさばかれているので、右足、右手が前の状態としては、次の動作に移行しにくい感じを受けてしまいます。一方で、表鎬で応じられた場合は、しっかりと受けられた感じになるはずです。

鎬を使った技は手の内がものをいう



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