世界剣道選手権大会

安藤翔インタビュー(第19回世界選手権大会 男子主将)前編

2024年11月18日

KENDOJIDAI 2024.10

インタビュー=寺岡智之
写真=笹井タカマサ

日本代表初選出から12年、前回大会から6年。安藤翔選手の剣士としての歩みは、つねに日本代表とともにあった。キャプテンとして挑んだイタリア大会の話題を中心に、剣道人生を捧げてきた日の丸への想いに深く切り込む―。

 イタリアでの激闘から3週間。男子日本代表のキャプテンを務めた安藤翔選手に会いに、国士舘大学多摩キャンパスを訪ねた。同大学を卒業して故郷北海道に戻り北海道警察に勤めていた安藤選手は、令和4年より母校で教鞭を執っている。

 迎え入れてくれた安藤選手の顔がいつもより柔和に映ったのは、試合場での厳しい表情を知っているからだろうか。とくに全日本選手権では、誰も寄せつけないオーラを身にまとい、夢をつかみとるため一心に竹刀を振るっている。世界選手権もそうだ。日本の勝利を誰よりも信じてきたのは、他ならぬ安藤選手自身。とくに近2大会は、彼の双肩に日本の威信がかかっていた。だからこそ、すべての肩の荷をおろした安藤選手を穏やかに感じたのかもしれない。

「世界大会は国内大会では経験できない重圧があって、そのプレッシャーと戦い続けた年でした。良いかたちで代表生活を終えることができてよかった。今はそんな気持ちです」

苦しかった韓国開催の世界大会
あの経験があったからこそ今がある

 2018年に韓国・仁川で開催された第17回世界選手権大会。安藤選手は2度目の日本代表に選出され、戦いの舞台に立った。3日間の日程で開催された大会は、初日の男子個人戦で安藤選手が世界の頂点に立つ。その勢いのまま迎えた最終日の男子団体戦。決勝の舞台で待っていたのは、予想通り、ライバル韓国だった。

 試合は一進一退の攻防が続き、日本がわずかにリードして大将戦へ。日本の大将を任されたていたのは安藤選手だった。

「あのときは正直不安もありました。完全アウェーの中戦うわけですから。少しでも弱気になったら負ける。そう思って、絶対に守らない、強気で攻め切ることだけを考えて試合に臨みました」

 試合は安藤選手と韓国のチョ・ジンヨン選手が両国の誇りをかけて激突。結果、安藤選手がチョ選手の猛攻を退け、日本が16度目の優勝を手にした。試合後、面を外した安藤選手は安堵の表情を湛えたまま、世界一に沸く仲間たちの輪の中へと加わっていった。

「あれほどのきつい経験は、剣道人生でもう二度と訪れないでしょう。本当に苦しかった。でも、あのときの経験が、6年後の今大会につながったと思います。私がここまで日本代表として頑張ることができたのも、あの経験があったからこそです」

 韓国大会を終え、日本代表は2021年のフランス・パリ大会へ向けてふたたび走り出した。主将は全日本選手権で3度の優勝を果たしている西村英久選手。もちろん安藤選手もチームの中核として活躍を期待されていた。しかし、2019年に流行し始めた新型コロナウイルスによって、その道はいきなり閉ざされることに。国内大会がすべて中止になっただけでなく、剣道自体が禁止状態に追い込まれる事態となった。

「当時は北海道警に所属していましたが、1年半、剣道をすることができませんでした。そんな経験、剣道をはじめてから一度だってありません。やりたくてもできないあの期間は、私にとって本当につらい日々でした」

 警察剣道が解禁となり、一発目の試合となったのが第回全日本選手権大会。もちろん優勝候補の一人として名前があがっていた安藤選手だったが、結果は1回戦負けだった。今まで自分はどんな剣道をしていたのか、試合をしながら模索するような状態だったという。

「もう、世界一になったころのような剣道はできないのではないか。そんな不安に苛まれるくらい、自分の剣道が分からなくなっていました。このままでは全日本選手権制覇なんて夢のまた夢。世界大会はなおさらです」

 パリ大会は中止となり、日本代表も一時解散。安藤選手は母校で後進の育成に励みながら、新たな環境で日本一を目指すこととなった。基本稽古に明け暮れながら自分の剣道を取り戻す日々。最初はなかなかうまくいかなかったが、あるきっかけから自分の目指すべき道が見えてきたという。「国士舘の久保優樹先生から『安藤の剣道は、いつもは見ていて楽しく感じるのに、全日本選手権だけはそう感じない』と言われました。たしかに、全日本選手権や世界選手権では勝つことばかりに頭がいって、剣道を楽しむことができていなかった。久保先生の言葉に目が覚めた思いでした」

 そして屈辱にまみれた1回戦負けから一年後、安藤選手ははじめて全日本選手権の決勝の舞台に立った。

「あの日は本当に調子が良くて、村上哲彦選手に一本をとられるまでは完璧な流れでした。今振り返れば、一本をとられても焦らず自分の剣道に徹すればよかった。試合をしているときは分かりませんでしたが、映像を見てみるととても急いでいる様子で、何をこんなに焦っているんだろうって。完璧に運べていたからこそ、あの一本ですごく動揺してしまったのだと思います」

 ここから、安藤選手はふたたび苦難の道をたどることになる。

日本代表キャプテンとして
チームで勝つことだけを求めた



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