構え 発声 足と有効打突

気剣体一致で打ち切れ(村上雷多)

2025年2月10日

2025.1 KENDOJIDAI

構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦

大阪体育大学で教鞭を執りながら、競技者としても大きな実績を残している村上雷多選手。大学では初心者を対象にした授業も受け持っており、そこで大事にしているのが「気剣体の一致」だ。どのようにすれば、誰もが目指す気剣体の一致した素晴らしい打突が身につくのか。その方法を村上選手に語ってもらったー。

村上雷多

むらかみ・らいた/平成元年生まれ、北海道出身。桐蔭学園高校から筑波大学、同大学院を経て大阪体育大学の教員となる。学生時代はインターハイ個人3位、全日本学生優勝大会優勝など活躍。社会人になってからは全日本選手権大会2位、全国教職員大会個人2位などの実績がある。現在は大阪体育大学剣道部監督として、後進の育成に励んでいる。剣道六段

「気剣体」とは何なのか
頭と身体で理解しておく

 気剣体の一致は、有効打突を競い合う剣道において最重要課題の一つです。読者の皆さまにとっては当たり前のことかも知れませんが、ここで有効打突の要件について、今一度触れておきます。「有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部位で刃筋正しく打突し、残心あるものとする」(剣道試合審判規則より)

 このことからも分かるように、気剣体の一致した打突でなければ一本にはつながっていきません。幼少期から剣道に励んできた方は、これらの要素を意識せずとも身体で覚えこんでこられたと思います。しかし、大人になって剣道をはじめられた方や、何十年も期間が空いてしまった方などは、この気剣体一致がうまくいかず、壁に当たってしまうことも多いようです。

 私は大阪体育大学の教員として、日頃の授業では剣道経験のない学生たちにも指導をする機会があります。その中で一番苦労するのが、この気剣体一致です。今回はいわゆる素人にどうやったら気剣体一致が身につくのかという観点から、お話をさせていただきたいと思います。

 まず、初心者に気剣体一致といっても、「気」「剣」「体」のそれぞれの要素が理解できていませんから、そこを噛み砕いて説明する必要があります。

「気」とは発声です。発声は修業を積み重ねてくるとさまざまな効果があることが分かりますが、初心者にはまず大きな声を出すことを第一に言います。皆さんも子どものころ、「大きな声を出せ!」と指導された経験があるかと思います。これこそ、剣道のスタートラインであり、とても重要な部分でもあります。発声は大きく分けて二つの効果があると私は考えています。一つは相手に対して脅威を与えること。そしてもう一つは、自分自身の充実をはかることです。とくに後者は大切で、発声によって丹田(下腹部)に力がこもり、動作にキレが出て打突に冴えが生まれます。授業では初心者にむけて発声だけの試合をすることもあり、審判をつけて、どちらが良い発声かを競わせます。昨今は大きな声を出すのを恥ずかしがる人も多く、その殻を破るためにもこのような方法をとっています。

「剣」は竹刀の物打ちで打突部位をとらえることを指します。初心者には物打ちの概念がありませんから、剣先から中結までで打つんだよと丁寧に教えるようにしています。このような説明をするととても簡単なように思えますが、実際に部位を打ち込ませてみるとなかなかうまくいきません。私はその理由が「間合」にあると考えています。修業期間の長い方は間合に明るくなり、どの距離から打ち出せば物打ちで部位をとらえられるかが自然と理解できています。しかし、間合の概念がない初心者はそこが分からず、届かない距離、あるいは振りかぶりながら近間まで入ってしまうなどして、うまく物打ちで打つことができないわけです。こんなときに効果的だと思うのが「木刀による剣道基本技稽古法」です。この稽古法を励行することによって、相手との間合や一歩で打つ感覚が身についてきます。これは初心者に限らず、熟練者にとってもおさらいも含めて有用だと思いますので、ぜひ稽古に取り入れられることをお勧めします。

「体」は打突時の体勢です。とくに、打突動作の姿勢と打ったときの踏み込みが大事だと私は考えています。面打ちであれば多くの方が体勢を崩さずに打つことができると思いますが、小手打ちになるととたんに体勢が崩れてしまう方が多いようです。本学の剣道部員には体の崩れがない打突を身につけることを徹底しています。打突と踏み込みはまっすぐ正しく、打ったあとは後打ちをされないように体をさばく。これができているかできていないかで有効打突になる確率も大きく変わってくると思いますし、気剣体の一致も自然と備わってくるのかなと思っています。

発声、打突、踏み込みの
三点がそろう稽古を心がける

 気剣体を一致させるためには、発声と打突と踏み込み、この三点が瞬時にそろわなければなりません。言葉で言うととても簡単ですが、長年剣道を学んできた本学の剣道部員でも、できていない者が多くいるのが実状です。

 なぜ気剣体が一致しないのかを考えてみると、剣道は上半身と下半身の連動が大事だと言われますが、ここがうまくできないのが理由だと思います。上半身であれば振る動作、下半身であれば踏み込む動作、このまったく別々の動作を一つにまとめなければならないわけですから、たしかに難しいのかもしれません。

 気剣体が一致する感覚をやしなう方法として、私が大事にしているのが素振りです。昨今は竹刀を振り切ったあとに「メン!」と発声する者が多く、これでは気剣体の一致とはなりません。空間打突であっても相手を想定して、物打ちが部位に当たると同時に左足を引きつけ、このタイミングで「メン!」と発声する。この素振りを繰り返すことによって、気剣体の一致する感覚が身についてくると考えています。空間打突だけでなく、竹刀やタイヤなどを同じ感覚で打つ、その後は実際に相手を打ってみるなど、さまざまな状況下で同じ気剣体の一致した打突ができるかもポイントです。素振りだとできていたものが、何かを実際に打つとなるととたんにできなくなるのも剣道でよく見る光景です。そのズレを日ごろの修練で修正していくことが大切でしょう。

 高明な先生方や強い選手は、打った瞬間の発声、打突、踏み込みや決めなど、それぞれの要素のまとめ方が非常にうまいと感じます。この総合力こそ、気剣体の一致した打突と言えるのかもしれません。であるならば、気剣体の一致した打突を目指すことこそ剣道修業の本筋であるわけですから、目先の打った打たれたに囚われず、正しい稽古を積み重ねていただきたいと思います。

発声で丹田に力を込め、構えを充実させる

 先ほど、体勢が崩れることのない打突を目指したいという話をしましたが、そのためにも意識してもらいたいのが構えです。構えが崩れてしまっては、その後の打突も崩れたものになってしまいます。

 私が構えで意識しているのは、丹田に力を込めることです。こう言うととても難しいことのように感じますが、行なっていることはいたって簡単です。まずは大きな声を出すこと。私は幼少期から、相手と構え合ったらまず大きな声を出すことを指導されてきました。発声は相手へ威圧感を与えるだけでなく、自身の充実をはかることを大きな目的としています。大きく発声をすることによって丹田に力が溜まり、自然と上半身の力が抜けます。これによって、自然体の構えが整うわけです。

 そしてもう一つ意識してもらいたいのが足構えです。剣道は一瞬の隙をとらえて打つことが求められます。いつでも打てる体勢を整えておかなければ、その瞬間に打ち出すことはできないでしょう。教本にあるように、左右の足幅は握り拳一つ半程度、前後は右足かかとのラインに左足つま先がくるように構え、左足つま先にはつねに力を込め、打ち出せる準備をしておきます。

大きな発声で丹田に力を込めることにより、構えの充実をはかる

いつでも打ち出せる状態を維持するため、左足つま先にはつねに力を込めておく

発声、打突、左足の引きつけを一致させた素振りを心がける



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