KENDOJIDAI 2025.8
構成=土屋智弘
写真=笹井タカマサ
*本記事に掲載された画像の無断転載・使用を固く禁じます。
一拍子の打突に求められるのは、動作上の工夫・矯正だけに留まらない。精神面に起因する要素が多分にあると加藤教士は説く。相手との相対的な関係や、自らの無意識下で生まれるという、理想の一拍子の技について詳述いただいた。
加藤公一

左足を継がない
足の運用を覚える
何をもって一拍子の打突とするのか、解釈は難しいところだと思います。例えば剣の振り上げ、振り下ろしだけを見ると二拍子のようにも感じられるはずです。そこで私は、一拍子の打突を考える際は足の運用に力点をおきます。つまり左足を継がずに、構えたそのままの位置から左足を蹴り出し、打突できるかということです。ですから継ぎ足をしてからすぐに打突するのは、一拍子の技とは解釈できません。
継ぎ足をするところは、相手にとっては狙いどころになるとは良く言われます。裏を返すと、相手に悟られずに打突するには、一拍子の打突が必須だということです。また打突の機会は一瞬です。すかさず打突に行く上でも一拍子の足の運用が重要になるでしょう。
現在私は公立中学校でも初心者から教えています。人間の通常歩行は交互に足を蹴り出すことですから、彼らにとっては、右足を前へ出して飛ぼうと思うと、助走のように左足を引きつけて(継ぎ足)、蹴り出すのが自然に感じるでしょう。しかし剣道で求める一拍子の打突にするためには、その動かし方ではいけない訳です。そのため面を着けて最初に行う切り返し時の跳び込み面から足を継がないよう指導しています。口酸っぱく注意しませんと、どうしても足を継ぎがちです。大人の剣士の方でも左足を継ぐのが癖になっている方は多いと思います。一度打突時の自らの足の動きを注意深く振り返ってみましょう。
力を抜くことで
実現する一拍子の打突
「上虚下実」の教えの通り、剣道において上体の力が抜けていることが、理想の打突の条件となります。一拍子の打突を上半身で考えた場合、真っ直ぐに振り上げた竹刀がそのままの軌道で、真っ直ぐ相手に向かって振り下されることが大切です。「それは当たり前、素振りや基本打ちからきちんと振れている」と思う方は多いでしょう。では、上手の先生と稽古している最中に、パッと先生が竹刀を開いた際、真っ直ぐに面を打てているでしょうか。大概の方は力が入っていて、右に打突が流れるか、当たらないという状況になっているはずです。
剣道は相手がいて、その相対関係で自身の状態が変わってきます。相手の気に押されていたり、攻められていたりすると、それを打開したい意識や、打たれたくないという気持ちが、自然と力みを生むのは本能の一部とも言えるでしょう。結果として右手に力が入りがちで、それゆえに打突が右に流れます。左右の手のバランスが崩れ、どこかで斜めに振りかぶったり、振り下ろしたりしているのです。その振りの変化は、すなわち二拍子になっていると解釈できると思います。
続いて相面を考えてみましょう。お互いに打たれたくないという気持ちから右手に力が入り、ガシャっとした打ち合いになりがちです。「打たれてもいい、こちらも真っ直ぐ打つよ」と互いに思いやると、自分も相手も当たるようになるはずです。本来ならこうして真っ直ぐ打つのが正しい打突で、曲がったり、捻ったりして打つのは、気持ちの上でも一拍子とは言えないと思います。
心身共に捨て切る
理想の打突とは
また剣道に大事な要素として「捨身」が言われます。それは相手の隙を捉え、打たれることを恐れずに、躊躇なく身を出して正しく打突することです。すなわちこれこそが一拍子の打突と言えるもので、動作のみならず、心理面も大きく関係することを表します。しかしそうは言っても全ての打突を捨身で一拍子にするのは至難でしょう。必死になったり、試合などでは負けたくないという想いから力が入ってしまうものです。高校生などに試合で「力を抜け」と言っても響くものではありません。一方で試合でも自然に、無意識に技が出たという場面があるかと思います。そうした状態では捨身で一拍子の技が出ていると想定されます。
まとめますと、捨て身で無駄な力なく一拍子で正しく打突するには、錬度を上げるしかないということです。稽古を続け、自らを錬ることで、そうした状態で掛かれる相手が増えるということです。上には上がおり、私自身も範士の先生方に掛かるのには、必死となり、理想の一拍子の技が出ているとは言い難いです。つまり終生の剣道修行で追い求めていくのが心身共に捨て切った、正しい一拍子の打突なのです。
攻めの利いた正しい構えが土台
正しい構えが一拍子の打突の土台となることは言うまでもありません。左足がいつでも蹴り出せる状態でないと、打つべき一瞬の機会を捉えることは難しいでしょう。しかし打ち気に逸ったり、相手に攻め込まれたりすると、右足ばかりが先に出て、足幅の広い構えとなってしまいがちです。そうなると左腰が開いていき、淀みなく打ち出す一拍子の打突とはならないはずです。
他にも前述した通り、右手に力を入れないこと、そして目付が下がっていないことも重要でしょう。肩や腕に力が入ると、目付も下がりがちになります。「遠山の目付」の教えの通り、相手の全体を見つつ、居着くことなく、いつでも正しく生きた構えを維持することが欠かせません。鏡で矯正することも大事ですが、稽古などの実戦ではどうなのかを検証する必要があります。
その正しき構えに加えて、打つ前の攻めがあるかないかが重要です。「打って勝つな、勝って打て」の教え通り、相手に攻めを利かせることで、こちらが優位に立ち、機会を正しく打突することで、一拍子の技が出現するのです。ですから高段位の審査等で求められる打突には、打つ前の攻めが欠かせません。
残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます





No Comments