出ばな 剣道の技

適切な間合、絶妙な機会(有馬裕史)

2026年3月9日

2025.7 KENDOJIDAI

構成=土屋智弘
撮影=西口邦彦

剣先が相手と触れ合わない上段では、感覚や勘で間合を割り出す。相手に攻め勝ち、繊細に間合を詰めることで適正な機会を生み出す。名手有馬教士に上段における間合と機会について伺った。

有馬裕史 教士八段

ありま・ひろし/昭和38年神奈川県生まれ。東海大相模高から東海大に進学。卒業後教職に就き、現在は厚木西高校で教鞭をとる。望星サイエンス株式会社剣道部師範。主な戦歴に全日本学生優勝大会3位、全国連盟対抗優勝。全国教職員大会3位。全日本都道府県対抗、国スポ、全日本東西対抗出場など

感覚から経験則で間合を割り出す

 ご存知のように上段では、中段同士のように互いの剣先が触れたり(触刃)、交わる(交刃)ことはありません。ですから目で見た感覚から、経験則で打ち間を割り出していることになります。もちろん最初は中段で構え合い、そこから上段を執る、あるいはやり取りの中で相手の剣先を叩いたりすることはあります。しかしそれで間合を図るわけではなく、相手に近いのか遠いのか、あるいは自分の打ち間に入ったかなどは感覚や勘がものを言います。

 中段の打ち間と比較したことはないのですが、上段では片手で打つ分、物理的には遠くから打てると思います。しかし相手もその辺りは周知しているので、遠くから打てるから有利だとは一概に言えないでしょう。警戒されている分、返されたり、余されたりする恐れが出てきます。

 そこで私が心がけているのは、繊細に少しずつ間合を詰めていくことです。逆に大きく入ると、そこを狙われやすくなります。それでも若い時分でしたら、大きく入り相手が打突に来ても、脚力や反射で対応ができました。敢えてそうして、反応を探るようなこともしていました。しかし年齢を重ねた今は、そうした無理はせず、含み足や小さい足幅でジリジリと攻めることを中心に行なっています。

 間を詰めていく中で、相手が攻め返してきたり、退がったり、横に行くなど反応することがあります。手元だけでよける方がやりやすく感じますが、間合に明るい方は、引き込んでこちらの打突を誘い出し、余して返すことを狙っているので、細心の注意を払って見極める必要があります。

攻めで有意に立ち、動揺や居着を作り出す

 その攻めの中、所々で色を出しながら、相手の反応を観察します。こちらが攻め勝った状態では、こちらから仕掛け組み立てて、さらに揺さぶりをかけます。やはり小手を警戒するから面があき、面に注意を向けるからこそ、小手に隙が生まれる訳で、それを誘発するような攻めを考えています。そして打ち間を考えた場合、中段と同じく小手は面よりは近くにありますが、遠間だから面、近いから小手という風にはいきません。また相手に無理な打突を出させて、その動作の起こりを狙うのも定石となります。

 上段の場合、剣先が頭上から後ろにあるので、結局、間合に入られてしまうと、相手の剣先の方がこちらに近くなります。そのような状態になってしまうと、避けるのに精一杯になってしまうので、如何にしてその前で対処するかが重要になります。攻めの段階で優位に立つことが肝心で、相手が何か動揺したところ、つまり相手の心を居着かせる、動じさせるというイメージで考えています。その結果、現象面として構えが崩れ、例えば少し手元が上がり、隙が生じたり、こちらが優位な状態にあるのに、相手が打突に出てくるような機会が生まれ、その出ばなを捉えることができます。

 つまり間合や機会とは、自分の距離だけではなく、相手も常に動いているので物理的にも変化し、自分が攻めているのか、あるいは攻められているのか、それによっても変わる相対的なものだと捉えています。精神的な部分も大きく作用するものです。その判断を見誤ると、自らの機会でないところで技を出し、返されたり乗られたりしてしますし、こちらとしては機会でない所で相手が出てくれるような展開が理想になります。

 今春より職場環境が変わり、稽古がままならない時もありますが、相手とのやり取りの中で、自らの打ち間を掴み、好機で打突するという自分の剣道を打ち出せるような修行を今後も追い求めていきたいです。前を見て修行していくのも大事ですが、過去にどうやったかを振り返り、検証してみることも自分の剣道に役立つものと近年感じています。昔、先生にいただいた教えや、調子が良かった時の感覚を再現させ、そこに理を付けていくような作業だと思っています。十を目指しながらも、また一に戻り、見つめ直すようなことです。生涯にわたる剣道修行だからこそ、大切なことだと感じております。

仕掛け技は色なく打ち出す



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