2019.6 KENDOJIDAI
有効打突の条件の中に、「刃筋」という要件がある。
刃筋正しい打突は剣道修業において重要かつ、体感する事の困難な要件の一つである。日本体育大学においては、木刀による剣道基本技稽古法や日本刀を用いた「刀法」の稽古を行なうことで、刃筋を意識させるようにしているという。
「竹刀の正しい軌道を意識した稽古が大切」と語る八木沢教士(同大学教授)に、その稽古方法をご紹介いただく。
八木沢 誠(やぎさわ まこと)
日本体育大学 教授
1961年生まれ 秋田県出身。1984年日本体育大学武道学科卒業、1990年日本体育大学大学院体育学研究科終了。
剣道教士八段 日本体育大学剣道部師範、日本体育大学副学長
全日本学校剣道連盟常任理事。関東学生剣道連盟卒業生常任幹事。
日本体育大学剣道部女子・男子監督・部長を歴任、2003年世界剣道選手権大会(グラスゴー)フィンランドチームコーチ。
鎬と刃筋を意識するための稽古とは
剣道の理念には「剣の理法の修練」という言葉があります。その言葉の中には、刀法も勉強することの大切さを含んでいると思いますが、私たちが普段行なっている竹刀剣道においては、刃筋や鎬といった要素は意識しづらいところがあります。
日本刀は平安時代にその特徴である独自の形(反り・鎬)が完成したと言われています。日本刀は折れにくく、曲がりにくく、かつよく斬れる優秀な武器として世界に知られています。
日本刀の特徴の一つに、鎬造りがあります。鎬造りは、棟(竹刀で言う、弦の部分)を上にして断面図を見ると、左右が両サイドに張り出して細長いひし形になっています。この張り出た部分が「鎬」にあたります。
刃筋正しく、無理なく円滑な動作を行なうことを「理にかなった」といった言葉などで表現されると思いますが、ここを勉強することが「剣の理法の修練」につながると考えています。竹刀剣道においても「刃筋」や「鎬」を常に意識しながら竹刀操作を行いたいところですが、竹刀の断面図は「四角」ですから、そこに実践する上での難しさが浮かび上がってきます。今、剣道修業を行なう私たちが刃筋や鎬を意識するためには、実際に日本刀を使った稽古をするのが一番理解を得やすいとは思いますが……。
本学(日本体育大学)では二年前から4年生の専攻武道実技という授業で、日本刀で巻き藁を斬るという実技を行っています。日本刀を実際に持ち、巻き藁を斬ってみることで、「刃筋とは」「鎬とは」をいうことを体感させるようにしています。巻き藁斬りは、剣道を学んできた学生にとっても斬るのが難しいものです。それだけに、竹刀を用いて刃筋を意識することは難しく、竹刀と日本刀における操作方法には、かなりの違いがあることが容易に理解できるようになります。こうした体験を生かし、将来、指導する場面において、経験談を含めて説明してあげることが大事なことと考えています。
初心者の学生たちには新聞紙斬りを実践させています。剣道経験者であっても竹刀を保持する左右のどちらかの腕の力が強すぎる(とくに利き腕側)ために、新聞紙であっても切れない学生もいます。剣道有段者でも簡単ではありません。新聞の折り目に沿って、刃筋正しく真っ直ぐ振り下ろせばスパンと斬れるのですが、余計な力が加わって、竹刀の軌道が斜め方向であったり、蛇行していては新聞紙すら斬ることはできません。私は竹刀操作における刃筋を指導するときには、「正しい竹刀の軌道」という表現を用いています。正しい竹刀の軌道を考える方法として、最も手軽な方法は素振りですが、自分ではなかなか欠点を見出すことはできません。時には鏡に向かって素振りを行い、真っ直ぐの刃筋、左右対称の斜め方向からの刃筋を確認してみてください。また相手がいる場合には、お互いに正面から見合って、注意し合うことも授業では取り入れています。
鎬についての理解は、模擬刀、居合刀、もしくは木刀を使用することよっても意識を高めることが可能になります。「日本剣道形」や、「木刀による剣道基本技稽古法」の中には竹刀剣道に活用できる要素が沢山含まれておりますので、面を着けての稽古においてもこれらを活用し、大きな動作から徐々に小さな動作に移行させ、それらが無理のない動きの中で体現できるようになれば剣道の幅は更に広げられると思います。特に「玄妙な技」とされる「すり上げ技」などは、竹刀の側面部を使って相手の竹刀の軌道を変え、隙を作って打つ技です。まさに竹刀の中に鎬を意識することによって、体さばきも含めて「理に適った」打突動作が勉強できます。こうしたことは上級者のみならず、初級者の段階から意識してもらいたいものです。
竹刀の正しい軌道を意識する素振り
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