2022.10 KENDOJIDAI
撮影=笹井タカマサ
島村教士が若手の剣道特練員時代、勝負を制するために注目したのが、「動作の隙」だった。
動作の隙を意識することで、より「相手を崩す」「相手の隙を逃さない」といった要素を学ぶことにつながったという。
高段位の剣道に近づくためのヒントは、隙をとらえることにあるのかもしれない。
島村剛史教士八段
今回のテーマである「隙とは一体何か」を考える時、まず時間的な要素を意味する「間」、空間的な要素を意味する「間合」、この二つに「隙」があらわれるものだと思います。
また、三つの隙という言葉があります。構えの隙、心の隙、動作の隙といわれるように、適切な「間」「間合」において、これらの隙をとらえることが有効打突につながると思います。
私は東海大相模高校を卒業後に警視庁に奉職しました。当初は稽古、試合でなかなか打てず、また、試合に出ればよく負けていました。そのような中でどのように同年代や先輩の世代の選手たちに一本でも多く打つことができるのかを考えた時に、「隙をとらえていなかった」ことに気づきました。こちらが充実していたとしても、相手が崩れていないからです。むしろ「技を引き出されている状態」であるのかもしれません。
自分の都合だけで打つのは良くないと警視庁の先生方からもご指摘いただきました。隙がないところは打ってはいけませんし、隙がなければ相手を崩す、惑わせるなどしなければいけません。
隙について考えるようになってから、駆け引き(剣先での攻め合い、心のやり取り)について考えるようになりました。稽古で何回も打たれましたが、ようやく「これが隙をとらえることか」と感じられたのが、出ばな技の稽古に取り組んでからでした。
三つの隙のうち、構えの隙、心の隙については同年代の同じような実力をもった選手に対しそれをとらえることは大変に難しいことだと思います。しかし、動作の隙については、熟練度が高い人であっても必ず生まれるものです。だからこそ、まず動作の隙について勉強する必要があると感じました。
私はもともと出ばな技をよく使っていましたが、「動くところを打つ」という課題をもって取り組んでからしばらく経って、試合で無意識に動いた出ばな技が一本となった時がありました。「あれは良い機会だよ」と先生方から声を掛けていただいた時に「あのような場面で技を出せば決まるのか」と思いました。
少しずつ出ばな技の感覚を掴めるようなってから、選手として安定して起用されるようになりました。30歳手前になっていました。動作の隙をとらえる稽古は「相手を崩す」「攻める」「合気になる」といった勉強も重ねることができると思います。高段位の剣道をめざす上でも必要な要素かと思いますので、私にとって大変有意義な勉強になりました。
今でも出ばな技には自分自身の中でこだわりを持って取り組んでいます。何回も手合わせをしたことがある相手には出ばな技を警戒されますが、そこを攻めによって工夫を重ね、勉強を重ねたいと考えています。
正しい構えによって隙をとらえる
隙をとらえる為に、まず大切なことは「常に打てる状態をつくること」だと考えています。相手が隙を見せる機会は試合の中でもなかなか無く、また、見せたとしても一瞬であり、そのわずかな機会を逃さないためにはそのための準備が必要です。必要なことは、大きく3つあると考えています。
1、構えが正しく整っていること
正しい打突は正しい構えから生まれます。構えが正しくなければ打突は崩れ、有効打突の条件を満たした一本は打てません。攻め合いになっても正しい構えを維持するように努めます。
2、気持ちは先を掛けること
高校時代の恩師・木田誠一先生から「気は大納言の如く身は足軽の如し気は高く豊に身は忠実細心に動け」というお言葉をいただいたことがあります。「気は大納言の如く」にあるように、気持ちを強く持って対峙することで、相手の動作の隙にも後手に回らず打つことができると思います。
3、左手のおさまり
ある先生から「左手は心だよ。左があちこち動くのは心が動いている証拠。左手をおさめなさい」とご指導いただいたことがあります。左手は構えの要であり、ここが崩れると一本につながる打突や攻めを行なうことができません。また、相手が技を仕掛けてきたとすると、そのままでは防御しかできないでしょう。
これら3つのポイントをおさえながら、動作の隙をとらえる稽古を行なうようにしています。構えの崩れは心の崩れであり、常に正しい構えを心がけたいと考えています。
攻め勝ちすぎない攻め方
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