2023.5 KENDOJIDAI
剣道界に期待の新リーグが発足した。その名も「侍リーグ」。今リーグは実業団が中心となっており、その内容も従来の大会とは一味も二味も違ったモノになっている。今回は発起人である株式会社アールエフテクニカ代表取締役の宮原禎氏に、リーグ設立の経緯から今後の展望まで、侍リーグにかける熱い想いをうかがった。
構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦
剣道を更に夢のある競技にしていきたい
ーリーグ設立の経緯について教えてください。
宮原 私は幼少期から大学まで、日本一を目指して剣道を続けてきました。一時の中断ののち、起業をして数年のタイミングで再開したのですが、それまでの社会人経験を経て改めて剣道を俯瞰的に見てみると、さまざまな違和感を覚えるようになりました。その中でも一番に感じたのが、剣道の認知度の低さです。私は自身の経験から、剣道という武道の素晴らしさを知っています。しかし、一歩外に出てみると、剣道の選手を誰も知らない。そして剣道競技人口の減少、極めつけはコロナ禍における剣道の扱い、この現状を何とか変えたいという想いが、リーグ設立のきっかけになりました。
ーこれだけ長い歴史を持つ剣道が、なぜ一般的にはほとんど認知されていないのでしょうか?
宮原 宣伝力の低さが問題の根底にあると思います。地上波のテレビで放映されるのは全日本選手権の一部だけですし、我々が主戦場としている全日本実業団大会はニュースにもなりません。そんな状況では剣道のことを知るきっかけさえないでしょうし、競技人口がどんどんと減少していくのも当然のことと言えます。私は、剣道を更に夢のある競技にしたいと思っています。そのためには、今を生きる剣道家の素晴らしさをもっと発信していかなければならない。今回のリーグ発足がその足掛かりになればと考えています。
ー大会開催まで、どれくらいの準備期間が必要でしたか?
宮原 構想から今日の日を迎えるまでに2年半かかりました。剣道時代編集長の小林様にも相談しながら、一企業ずつご提案させていただきました。私の想いを聞いていただくところからのスタートです。ようやく大会というかたちになったというのが、今の正直な気持ちです。やるからには最高のモノにしたいという気持ちもありましたし、そのためにプレ大会も開催して、万全の状態を整えました。
ー企業まわりをしているときの反応はどうでしたか?
宮原 多くの企業担当者様から、「いいね」「ぜひ参加したい」という声をいただけました。ただ、最終的には会社としての承認が必要となりますので、そこは何とかみなさまにご協力を仰いで、会社としての参加を了承いただきました。
ーリーグ名は「侍リーグ」ということになりました。この命名についてはどのような気持ちが込められているのでしょうか?
宮原 剣道の認知度を上げていきたいと考えたときに、やはり世界に向けて発信していくことが大切だと考えました。外国の方々にとっては、「サムライ」や「ニンジャ」はキラーワードです。サムライという言葉から剣道は連想しやすいですし、ぴったりのリーグ名だと思いました。
ー今リーグの特徴として、サッカーW杯でも話題となったビデオ確認(本大会での呼称)の採用があげられると思います。剣道界では賛否が論じられそうな判断だったと思いますが、なぜビデオ確認を取り入れようと考えられたのですか?
宮原 まず前提としてお話ししておきたいのは、今回のビデオ確認は決して現状の審判制度を批判するようなものではないということです。通常、大きな全国大会では全日本剣道連盟から派遣要請を受けた高段位の先生方が審判を行ないますが、今リーグは初開催のため大会参加チームが持ち回りで審判を務めることにしました。ですので高段位の先生方の様な判定を求めるのは困難です。
それでも正式な大会ですので、ビデオ確認も取り入れ公正な判定となるようにしました。また審判機会の少ない若手実業団選手の審判練習となること、先生方からどのように試合が観えているのかを実感する場となる事も目的のひとつとしました。そしてその補完的役割として、自分達の判定が正しかったのか?検証できるようにビデオ確認を活用しようということになりました。
もちろん一本の条件はビデオ確認だけでは判定できませんが、打突部位を捉えていたかは判定できると考えています。
ーそしてもう一つ、団体戦での判定制導入も大きな特徴の一つですね。
宮原 引き分けをなくすことにより、よりアグレッシブな試合展開になることを期待しての判定制です。
〝勝利至上主義〟を改善するきっかけになるかもしれません。加えて、剣道家以外にも波及させたいと考えたときに、試合が膠着した場面ばかりでは誰も観たいと思わないでしょう。剣道ファンを増やすためにも、一瞬も見逃せない試合展開になる土壌が必要だと考え、判定制を取り入れることにしました。
ー剣道を知らなくても、一目見てファンになってもらえるようなかたちにしたいということですね。
宮原 はい。わかりやすい事、ヒーローやヒロインがいる競技は継続、発展する、が私の持論で、そのためにできるだけ、選手の露出を増やしていきたいと考えています。侍リーグは今後、動画配信サイトで順次試合を公開していく予定です。試合には解説をつけることも考えていますし、ぜひ、期待してもらいたいと思います。
ー剣道界という枠を飛び越えて、全世界の多くの人に見ていただく自信はありますか?
宮原 自信といいますか希望を持って取り組んでいます。これだけの企業にご参加いただいていますし、これからさらにブラッシュアップしていけば、必ず結果は出ると思っています。
ー実際に大会を開催してみて、今の率直な手応えと今後の展望を聞かせてください。
宮原 少しご質問からはずれますが剣道は試合や勝敗が全てでは有りません。むしろ日頃の鍛錬や人間形成が重要と考えております。自分との闘いであり、年齢、性別、国を超えて縁を持てる道であり、しがらみ無く自分を律する場と思っています。そして大好きです。もっと多くの方に、子供たちに剣道を知ってもらいたいと強く願っています。普及したいと考えています。
そのうえで本日リーグ戦が開幕出来て、やっとスタートラインに立てたかなという気持ちです。剣道で言えば試合場に並んだくらいでしょうか。本番はこれからです。大切なのはどうやって発信していくかですから。今後は反響を見ながら、さらにできることを模索していきたいと思います。スポンサーが集まればもっと大きな会場でできるかもしれませんし、今回は東京開催でしたが全国各地で開催することも視野に入れています。
ー宮原さんの中で、最終的なゴールはどこに置いているのでしょうか。
宮原 一番の目的は剣道人口の増加と剣道ファンの増加です。将来的にはプロリーグが出来れば良いと思っています。剣道を生涯続けるうえで一つの選択肢が増えれば幸いです。
侍リーグが年間に3~4回開催されて、さらにファンがついてテレビでも放映されるようになれば、これも夢物語ではないはずです。実際に、そういった他の競技や武道があるわけですから。ただ、これができるのは今しかないとも思っています。今以上に剣道人口が減少してしまってからでは、もう間に合いません。だからこそ、私も一人のファンとして、今後の侍リーグに大きな期待をしています。
ー今後の飛躍に期待しています。本日はありがとうございました
宮原 期待に応えられるようにがんばります。ありがとうございました。
No Comments