KENDOJIDAI 2016.8
少年剣道の総本山、全日本剣道道場連盟。昭和38年に発足された同連盟では、少年少女剣道普及の推進団体として、さまざまな取り組みを行なってきた。
道場連盟が関わっている施設として、大田区大森にある東競武道館、日野市にある全日本少年剣道錬成会館の二つがある。
この二つの道場で少年剣道に携わってきた豊村東盛範士に、はじめての剣道をよく導くためのコツについて伺った。
豊村東盛 範士
とよむら・あづもり/昭和25年鹿児島県生まれ。鹿児島実業高から中京大に進み、卒業後、会社員を経て団体職員となる。現在、全日本剣道道場連盟常務理事兼事務局長。
ポイント1:人口の拡大
錬成会館では入門生を随時募集し、個人の成長に合わせて、面をつけさせる時期などを考えてやっています。入門生はほぼ横ばいですが、一時野球やサッカーなどに子どもが流れたこともありますし、少子化の影響を感じることがあります。習い事の種類もうんと増えました。そのようななかで、剣道の良さをわかってもらえると嬉しいです。今は口コミで入門する方が多いので、剣道の利点が伝わっていると感じます。
まず、剣道のいいところは、特別な運動神経というものをそれほど必要としないことです。剣道の動作は複雑で、簡単にはできませんが、覚えたら忘れません。そして、高齢になっても続けられます。
剣道の目的の中には「生涯剣道」があります。生涯剣道の何が良いのかと言うと、道場には年齢、職業、学校といったカテゴリーに固まらない、様々な職業の方々が集います。様々な人たちと交われるのは、人生においてとても貴重な経験です。剣道においては、医者、弁護士、会社社長など、各社会で活躍されている人が多いのも特色の一つです。そうした方々と交わって勉強することも大切です。私も職業柄、亡くなられた橋本龍太郎元全日本剣道道場連盟会長をはじめ教育、実業団、マスコミ、警察、法曹など様々な分野の方々と交流させていただきました。学校の勉強はあまりしませんでしたが、剣道を通じて、たくさんの刺激をいただいたという思いがあります。
また、各社会で活躍されている人たちが多いというのは、保護者に対する宣伝効果にもなります。野球やサッカーにはプロの世界があり、大変な金額の年俸を得る選手もいますが、それはほんの一握りの人々であり、それをめざすというのはあまり現実的な話ではありません。こつこつと、不器用でも勉強と剣道を継続してやってきた人が、各分野で活躍している姿を見られるのは、励みになります。身近にいい目標、存在がいるのはいいことです。
「剣道とは」「人生とは」と、いちいち子どもたちに言わなくても、道場では自然と人間形成がなされていきます。剣道をやめたとしても、それを生かして社会で活躍してくれるように、たくましく育ってくれればいいですね。もっとも、今は、大人になって再開するケースが増えています。二世、三世と一緒に稽古をするというのもよく聞く話です。
女性が少年剣道の人口の減少を食い止めているという現実もありますね。今、少年剣道の30パーセントは女子です。さらにいいことは、女子がお母さんになると、道場に戻って我が子と一緒に剣道を一緒にやってくれるケースが多く、剣道人口減少を食い止めるのに、これほど大きな味方はいないでしょう。
ポイント2:しつけ
現在、錬成会館・東競武道館所属の子どもたちは、ほとんど剣道をやめなくなりました。約60人のうち、年に1人か2人、いるかどうかというところになりました。やめさせないコツについては、一つは、ことさらに「剣道は礼儀だ、作法だ」と、小さい子どもに言わないことです。たしかに礼儀、作法は大事なことではありますが、ことさらにしつこくやる必要はないのではないかと思います。
初心者の子どもは、まだ剣道の礼儀作法を知りません。半分遊び、半分真面目な雰囲気で教えるくらいで十分です。教える中でも、おしゃべりが止まらない子どもや騒いでいる子ども、言うことを聞かない子どもはたくさんいます。しかし、叱りながらも、指導者が愛情をもって接していれば、そのうち落ち着いてきます。
落ち着いて、正座を1、2分できるようになれば、子どもも大きな難関を一つクリアしたことになります。型に押し付ける必要はありません。今はインターネットでホームページを見て、見学に来るお母さんとお子さんがいます。もし、強く、厳しい指導をいきなり見せてしまったら、それだけでびっくりしてそれきり来なくなってしまうでしょう。少々頭に血が上っても、そこはぐっと我慢して、小さい声で、びっくりさせないようにして叱るなど、工夫がいります。
竹刀を刀と思え、という教えもありますが、小さい子どもには通用しません。指導者は、剣道を遊び道具の一つくらいにとらえるくらいがちょうどいいのではと思います。段階を追って、剣道の考えを伝えていけばよいでしょう。
剣道の目的としては、一つに、心を鍛えることがあります。「世の中は平等だ」という言葉もありますが、現実は、子どもたちには将来競争社会が待っています。剣道を通じて心身ともにたくましくなり、競争に対する免疫力をつけていく必要があるでしょう。また、自分がある程度強くたくましくなれば、人に対しての優しさや思いやりの心も育まれると思います。
そして、指導者が教える上では「気づく」ということが大切です。要は、褒めて鍛えるということです。これは多くの先生がおっしゃっていることでもありますね。褒めてあげるには、絶えず子どもの様子を見てあげて気を配り、気付いてあげなければできないことです。
ただ、気配りとはいっても、時には突き放すことも必要になります。というのは、気配りをされすぎて育ってしまうと、次の段階、高校や大学で剣道をする際に「ここでは自分をわかってくれない。道場で習っていた時には、私を理解してくれていたのに」といった、甘えが出るからです。子どもは可愛いものですし、よく見てあげることも大切ですが、そこで理解のある言葉をことさらに投げかける必要はない場合もあるでしょう。あまり理解を示し過ぎる指導をすると、高校、大学といった次のステップに進む際に挫折する場合があります。
挫折をした子どもはどうするか、というと、道場へ戻ってきます。そこで先生が子どもに同調すれば、その子はそれでいいんだ、と思ってしまいます。世の中には様々な考えの人がいます。高校、大学と環境が変わっていく中で、対応できる力を備えていって欲しいものです。それも、一つの剣道の教えなのではないかと思います。
ポイント3:やる気スイッチ
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