岩立三郎:松風館奥伝

道場で学ぶ(岩立三郎)

2025年7月28日

岩立三郎

いわたて・さぶろう/昭和14年千葉県生まれ。成田高校卒業後、千葉県警察に奉職する。剣道特練員を退いた後は、関東管区警察学校教官、千葉県警察剣道師範などを歴任。昭和53年から剣道場「松風館」にて剣道指導をはじめ、現在も岩立範士の指導を請うべく、日本はもとより海外からも多数の剣士が集まっている。第17回世界剣道選手権大会では審判長をつとめた。現在、松風館館長、尚美学園大学剣道部師範。全日本剣道道場連盟副会長、全日本高齢剣友会会長。剣道範士八段。

剣道力は道場でつける

 道場という言葉は、梵語の訳語で、菩提樹下の金剛座をさす言葉であり、のちに仏道修行の場所などを道場というようになったそうです。武芸の稽古場をさして道場というようになったのがいつからなのかはわからないそうですが、芸事をここで取り組むわけですから、単に気持ちよく汗を流せればよいというものではないと考えています。

 とくに大人の場合、貴重な時間を剣道に割いています。仕事の合間、さらに家族との貴重な時間を削って剣道をするのですから、心身が充実するような稽古を求めてもらいたいものです。

 師匠から自分の問題点を指摘してもらい、課題を与えてもらうこと、それが道場稽古の魅力だと考えています。与えられた課題を素直に聞く、課題克服に努力することは当然のことですが、教わる側は自分から問題点を尋ねられるくらい工夫・研究することが必要です。

 亡くなられるまでご指導をいただいた岡憲次郎先生は「質問をされたらなんでも教えるが、質問をされる前になにかとアドバイスをするのはおかしい」と強調されていました。剣道では古くから「三年はやく剣道をはじめるよりも、三年かけて正師を探し求めよ」といわれていますが、現実問題としてはなかなかむずかしいものがあります。

 松風館では、地元で別の団体に所属し、松風館の会員となって稽古に通われている方もいます。その方々が会員になっている理由はたくさんあると思いますが、つまるところ、自分の剣道を高めたいということになると思います。道場にはそのような求心力があるのではないでしょうか。会員の方々の要求を満たすべく、私も勉強しているところです。

身体をつくらないと心は入らない

 私は剣道の力をつくるもとは、身体をつくることだと思います。「健全な肉体に、健全な精神が宿る」ではないですが、剣道でもまったく同じです。

 一回の稽古を充実させるには、まず健康に注意し、しっかりと身体をつくることです。身体をつくれば技術の習熟度も上がります。技術の向上が実感できるようになれば稽古意欲もさらに上がり、もっと探究心が深まると思います。探究心が深まればいろいろなことに疑問がわき、さらに稽古意欲がわきます。身体をつくると心も潤ってくるのです。

 私自身、身体は走ることでつくってきました。竹刀を持たなくても、足腰を鍛えることで剣道の力を養うことができます。かつて高野佐三郎先生は「四キロ走れ、あとは棒を振っていろ。これさえしていれば剣道の力は落ちない」といわれたそうです。終戦から剣道復活まで、剣道ができない時期があったときの言葉です。

 昨年十一月の八段審査に合格された方の一人も毎日三十分走っていたそうです。その方は十年以上も八段に挑戦し、勝ち取った栄冠でした。昨年十二月、全剣連の合同稽古に行ったとき、いちばんに懸かってきてくれました。ご承知のように八段になれば、元立ちになります。しかし、その方は元には立たず、いままで稽古をお願いしてきた先生方に御礼の意味をこめて、稽古をお願いしているそうです。

 このような心栄えは、稽古内容の充実はもとより、身体づくりにも取り組んできたことと関係がないとは思えません。剣道はあらためて素晴らしいと思いました。



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