剣道の技 構え

総合的なつくりで正中線をとる

2020年8月10日

2017.9 KENDOJIDAI

ただ単に剣先を相手の中心につけているだけが、正中線をとることではない。その剣先を攻めと打突に活かすには、総合的なつくりが必要だと鍋山教士は説く。線でなく面で攻める。身体全体で相手に圧をかけるにはどうしたらよいか、その要諦をお聞きした。

鍋山隆弘教士八段

なべやま・たかひろ/昭和44年生まれ、福岡県出身。今宿少年剣道部で剣道をはじめ、PL学園高から筑波大へと進学。学生時代はインターハイ個人団体優勝、全日本学生優勝大会優勝など輝かしい戦績を残す。大学卒業後は同大大学院を経て研究者の道へ。現在筑波大学体育系准教授、筑波大学剣道部男子監督

PL学園に在籍していた高校時代、正中線のことは考えていましたが、当時の恩師である川上岑志先生から「まっすぐが一番早い」ということを徹底して叩き込まれました。また攻めの教えに関しても、相手を威圧して、相手の隙をみてというかけ引きのようなものはなかったです。

「相手の入りをまっすぐ打てばいいのだ」ということだけでした。左足のつくりと、相手より遠間から、相手の打ち間より前にこちらが打突するというものでした。最大、剣先と剣先を50センチぐらい離して、面打ちの稽古に励んだりもしました。それくらい左足の使い方というのをとことん教え込まれました。反対に、まっすぐやらないことに対してはすごく厳しかったです。現在自分が指導者になり、教え子たちに手本を見せる場合、それができるのはこの時の下地があったからです。

初心者は「下がるな」という教えをされると思います。下がると、左足への適切な力が抜けてしまい、打てる体勢でなくなるゆえにそう言われています。もちろん下がることをよしとはしませんが、手元を上げ剣先を相手から外してよけるよりは、中心につけたまま、足捌きで相手の打突をよけたほうがよいと思っています。

学生に稽古をつける鍋山教士。剣先だけで、相手の打ちを捌くというよりは、上下左右に足を使い、足と一体となって自然と相手の竹刀を抑えている

逆に私が高校生だった時は、下がりながらも左足をつくっていたと今でも感じます。これは小・中学生の頃、山内正幸先生に指導され身につきました。これが強さにつながっていたのだと思います。引いていても、左足のつくりは出来ていたので、相手は下がったと思って出てきたところに打突できました。

川上先生からは、「おまえ下がったな」と叱られたことはなかったです。川上先生は「下がるな」とは言っていたのですが、しっかりと、こちらがつくっていれば、おこられなかったですね。そこが先生のすごいところだと思います。このように、常に跳べる左足の意識といいますか、難しいことですが、それをやるべきだと思います。高校のトップクラスの選手がうちの大学には来ますが、それでも出来ている生徒は少ないです。よけたときにすぐ打てる状態になっていないです。

手元をあげてよけるよりは、引いたとしても、構えながら左足をつくり、打てる状態ならば正中線も効いていますし、その方が有利だと教えます。安易に手元を上げてしまうと、練り合いができなくなってしまいますから。一方で自分よりも強い相手に対して、正中線をといっても、なかなか取れるものではありません。もちろんそこを頑張って突破して行く、いわゆる掛かる稽古は大事だと思います。しかし試合でも、それをやっていると不利になる場合もあります。

正中線はつくりの圧迫感

例えば相手が上段をとったとしたら、どこを正中線と考えるでしょうか。竹刀を開いたまま、剣先で正中線を取るというわけにはいかないと思います。ですから私の場合、正中線を取るといっても物理的な中心線をこちらの中心線で狙うというものではなく、つくり全般から生じる圧力のようなものだと考えています。構えた時の竹刀の状態だけのお話ではなく、線というか面で攻めているイメージです。

そして相手が「打たれる」と感じることが、攻めだと考えています。その一つの形として竹刀に現れるのが正中線と一般的に表現されているのだと思います。あるエピソードがあります。わたしが二十歳前後の時に、神奈川県警察の宮崎正裕先生と練習試合をしたことがありました。剣先が強いまま入ってくれば、よけに入ります。そして軽く抑えられれば、戻そうとします。宮崎先生は、本当に絶妙な感じで竹刀を抑えられました。こちらはどっちだと、迷った瞬間でした。宮崎先生が面にこられ、何もできずにやられました。 

「これが中心か」といまだに忘れられず、強烈に覚えています。このように私自身、剣先で相手の竹刀を強く抑えて、正中線を取るということにそこまで執着しません。「先生の構えは怖いです」という学生によく言うのですが、3メートルくらい離れて構え「どうだ、恐いか?」と聞くと「恐くありません」と学生は答えます。つまり間が近づいた時に、 「打たれる」と思わせることが、相手への恐怖になるということでしょう。

それが攻めの一つ、真に正中線が効いている状態なのだと思います。この相手に「打たれる」と感じさせることを、こちらがどう表現していくかが、攻めにつながります。そのために、足のつくりであったり、剣先の位置があるのだと考えます。

相手の中心に構えるだけでなく、総合的なつくりがあってこそ正中線は活きてくる



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