昇段審査

昇段審査(佐藤成明)

2021年1月11日

2018.9 KENDOJIDAI

合格と不合格の決定的な差は準備にある。準備とは計画・実行・評価・改善の4段階。合格者の体験も踏まえ、それぞれの項目について注意すべき点を考える。

佐藤成明範士

さとう・なりあき/昭和13年栃木県生まれ、80歳。宇都宮高校から東京教育大学に進み、卒業後、同大学体育専攻科、さらに同大学院教育学研究科に進む。駒澤大学助教授を経て母校東京教育大学文部教官となり、筑波大学教授を最後に平成14年に退職。全日本選手権大会、世界大会、国体、全国教職員大会、全日本東西対抗大会などに出場。現在、筑波大学名誉教授。全日本学生剣道連盟会長代行。剣道範士八段。

剣道観を常に高く持つ
伝統文化としての剣道の正しい伝承のために

 剣道を修行する者、特に高段位を目指す者にとって昇段審査は最大の関心事の一つにあげられましょう。全日本剣道連盟では、日本の歴史と伝統に育まれた運動文化である剣道の正しい継承と発展を期して「剣道の理念」及び「剣道修錬の心構え」および「剣道指導の心構え」を制定して、これからの剣道の在り方の指針としています。剣道の審査は、その指針に沿って伝統文化としての剣道の正しい伝承を期してなされているのです。

 受審者がそれぞれの目的を持ち、それぞれの方法で修行を続けてきた修行の成果を全日本剣道連盟「審査規則・細則」第三条(付与基準)に照らし合わせて審査員たちの経験によって培われたそれぞれの審査基準によって、短時間の演武の中から受審者の表現する剣道技術(これには当然、技術表現の原動力となる目には見えない内面的な部分、心理的な技術も含まれます)の熟練度、さらには「人間性」までもが評価され、次の段階への修行の手掛かりが与えられるものです。

剣道修行のねらい―理に適った剣道実技の修得

 修行者の求める最終的な修行の目標、目的は様々でしょうが、全日本剣道連盟が制定した「剣道の理念」「剣道修錬の心構え」「剣道指導の心構え」に謳われている目標・目的を前提として「理に適った剣道実技の修得」にあることが理想であることは確かでしょう。ここで、「剣道修行のねらい」の具体的な項目を取り上げてみます。

(1) 日本独自の伝統文化である剣道を現代において正しく捉え、将来に正しく伝承する。

 特に、昨今はあらゆる文化の国際化が進む中(真の国際化とはそれぞれの民族や国家の文化を正しく理解し、認めることにあります)、剣道の家元を自任する我が国の剣道家は、日本の歴史や伝統、文化を意識的に学び、理解を深める努力が必要です。加えて、それをしっかり伝えることの出来る正しい日本語の学習も必要なことでしょう。

(2)基本動作を習得し、対人的技能の向上を図る。

 剣道の技術は、基本の習得なくしては成立し得ない体系になっています。剣道の基本動作を正しく習得し、修錬を積み重ねる中で、理に適った対人的技能の向上を図らなければなりません。正しい基本動作・対人的技能の向上を図ることをねらいとします。

(3)礼の意義を正しく理解し、礼法の習得を図る。

 剣道は師と相手があって初めて成り立つ運動文化であり、師や相手を尊敬することなど「礼」の意義を認識し、礼法を正しく執り行うことが大切です。徒に「虚礼」にならないようにせねばなりません。心がこもっていることが大切です。また、道場のみならず道場外での日常生活においても、正しい礼法が実践出来ることもねらいとします。

(4) 自己の確立を図る。

 剣道の修行を通して旺盛な気力、克己心、集中力、忍耐力、的確な判断力、決断力などを養うと共に、困難に屈せず、自己の責任において物事に誠実かつ真剣に取り組む態度を養い、社会で強く生きるための自己の確立を図ることをねらいとします。

(5) 社会的に望ましい態度の養成を図る。

 師や稽古相手を敬い、不断の修錬を続ける中で、お互いが信頼できる人間関係を構築していき、礼儀、信義、謙譲、勇気、至誠、責任、協力、敬愛、思いやり、奉仕など社会的に望ましい態度の養成を図ることをねらいとします。

(6) 生涯をとおして剣道に親しみ、明朗で心豊かな生活を営む態度を養う。

 剣道は年齢や性別などに関わりなく、長い間親しむことが出来る運動です。剣道が魅力あるものとして、生涯にわたって継続出来るように、また、剣道を通して明朗で心豊かな生活を営む態度を養うことをねらいとします。

(7)健康の維持・増進と体力の向上を図る。

 各自の年齢や性別、体力、生活習慣などを考慮し、それに応じた修錬を継続することによって、健康の維持増進と体力の向上を図ることをねらいとします。

(8) 安全に対する態度の向上を図る。

 現代剣道の修錬にあたって大事なのは「安全」の確保です。障害の予防、禁止事項の厳守、用具や道場の安全管理など、護身の意識を高め、安全に対する態度の向上を図ることをねらいとします。

8つの着眼点―実技審査で問われていること



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