2021.3 KENDOJIDAI
「小手は玄関、面は奥座敷」の教えの通り、小手技を身につければ攻撃の幅が広がる。表裏上下の攻撃で相手を崩す技術を身につけよ。一流剣士の小手技活用法と面技への展開を公開する。
写真=西口邦彦
構成=土屋智弘
技は部位を打とうと思って打つのではなく、流れの中で出るもの。とくに小手技は刃筋を正し、冴えで打ち切ることが大切となる。そして「最後は捨て切る勇気」と笠村範士は強調する。返されるかもしれない、抜かれるかも知れないと、思い淀むことなく向かうこと。技の組み立ても含めた小手技の極意をお聞きした。
笠村浩二範士八段
段審査や稽古でも、審査では面が中心になりますが、一方で試合では小手技で決まる場面が多いでしょう。
小手は打とうと思うと、そこに心が留まり、目線も小手部位へと下がり、気持ちも躊躇します。ですからあくまで面を狙っていき、無意識に小手技が出るのが理想です。「無私」という言葉がありますが、その状態で技を出すべきです。
私は小手技が得意ですが、得意なところは不思議と相手に打たれる部分でもあります。考えすぎてしまうと気持ちが躊躇し、そこに心が留まり、相手に誘われるように打たれてしまう結果になります。ですから、小手が得意といって、そこばかりを狙うと、逆に相手に狙われてしまうということです。
そのため上を攻める、つまり面を中心にして攻め、手元が上がったところで、意識することなく、反射的に小手へと変化するのが理想です。日本剣道形の七本目も、打太刀の面に対して仕太刀が胴に変化しますが、その機会では反射的に動いています。最高の胴打ちの一つだと思っていますが、小手打ちも同様に、相手が面を打とうと手元が上がった刹那を、反射的に変化して捉えます。
機会としては、中心を攻めながら相手に勝る気迫で攻めて、相手の手元を上げさせるかどうかが勝負です。最初から手元の上がりを狙うのではなく、攻める中で結果的に上がるのを反射的に捉えるのです。小手は一瞬で決める技なので、そこが外れるとつけ込まれてやられてしまいますので、機会はよくよく捉えるよう鍛錬します。
具体的な打ち方ですが、小手打ちは特に「冴え」が大切だと感じています。反対から言うと、剣道において「冴え」が最も生きる技が小手打ちとなります。上手な人は、一瞬の「冴え」で打ち切ります。両手の緊張感を持って打突しますが、打った瞬間に力を抜くことが肝要です。両手の緊張状態では、力とスピードが合っていないと、瞬時に力を抜けません。長く打突部位に留まると、冴えた打ちにはなりません。手の内がものをいうところです。
またあらゆる打突と同様に、腰が重要なのはいうまでもありません。前かがみになったりせずに、腰連動でしっかりとからだを入れ、上体はリラックスしたまま肩の力を抜いて、瞬間的に手の内の作用で打ちます。
冴えある打ちでは、相手の小手から「パン」といい音が出るものです。打ったら瞬時に力を抜く、そうすることで二の太刀、三の太刀を出すことにもつながります。また、相手の手元の上がりや、動いたところを打突するのが定石となります。じっと構えている相手に、小手を打っても冴えは出ません。
私は一昨年の2019年に、静岡県・浜松で行われた、第65回全日本東西対抗剣道大会の東軍・大将に選んでいただきました。当時は、嬉しい反面、プレッシャーも相当に感じておりました。自分自身として、最後の公式試合になるだろうという想いもあり、心に感じるものがありました。恥ずかしい試合はしたくないということで、毎日のように試合のことを考えて過ごしました。
しかし試合場に立つと、最後は何も考えなかったです。ただ腹をくくって、打ち込むしかないという心境になりました。お相手は兵庫の佐藤桂生先生でした。現役時代から何度も対戦をさせていただいております。その頃の様子や、試合運びについて色々と考えたのですが、最後の試合だと思うこともあり、吹っ切れました。試合が終わって試合場を後にするとき、公式試合もこれが最後かと思うと、感慨深かったです。最後に名誉ある大会の大将に選んでいただき、剣道家冥利につきる思いがありました。
剣道は高齢になっても、竹刀一本で行うことができます。作家の五木寛之の作品に『下山の思想』というのがあります。登山に例えると、私も現役時代は我武者羅に登っていましたが、今は下山の途にあります。それでも相手と構え合うと、それなりにできるというのは、剣道の醍醐味だと感じています。どこの文化にもない剣道の素晴らしいところです。
刃筋を意識することで正しい小手打ちを習得する
小手は一番動きのある部位です。めまぐるしく動く部位に打たなければなりません。実戦の動きの中で、気で攻め、パッと反射的に捉えるのですが、縦に捉えるか、横に捉えるか、間合や相手の足幅等によっても変わります。いずれの場合も大切なのは刃筋を正すことです。
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