私がこの執筆で目指したことは、単に難解な心理学研究の知識やトピックを示すのでは
なく、様々なレベルの剣士やアスリートが日々の中で「感じ」、「考え」、「実行」してきたことを心理学の理論と方法論に乗せながら、できるだけ具体的でわかりやすく解説することでした。各稿は、心理学の一テーマと剣道や日常場面とをリンクさせながらストーリー展開することをベースとしています。その中の一フレーズでも心に留まり、明日からの剣道の拠り所となってくれたら著者としてはこの上ない喜びです。
矢野宏光(やの・ひろみつ)
1968(昭和43)年 秋田県湯沢市生まれ。東海大学体育学部武道学科剣道コース卒業。東海大学大学院修士課程体育学研究科(運動心理学)修了。名古屋大学大学院博士後期課程教育発達科学研究科(心理学)満期退学。現在、国立大学法人高知大学教育学部門 教授。スポーツ心理学のスペシャリストとしてさまざまな競技のサポートに取り組むと同時に同大学剣道部監督。また、スウェーデン王国剣道ナショナル・チーム監督(2004~2009)など国際的にも活躍。一貫して「こころ」と「からだ」のつながりに焦点をあてた研究活動を展開。全日本東西対抗剣道大会出場(優秀試合賞1回)など。剣道教士七段。
言葉が変われば行動が変わる
人の考え方(思考)は、ポジティブ(積極的・肯定的・前向き)なものとネガティブ(消極的・否定的・後ろ向き)なものに大別されます。そして、よく物事はポジティブに考えることが重要であることが指摘されます。ですが、実際には「そのようにできないから困っている」のも事実なのです。
剣道においても、試合や審査中にネガティブな思考が顔をのぞかせると「最後には自分が負けてしまうかもしれない」と考えたり、「相手が強くて自分の技はなにも通用しない」と混乱したりしがちです。しかし、勝負の結末や審査の結果などは、これから起こる未来のことで、それを予知することはできません。
心理学の研究によって「こうなるのでは…」という思考は無意識のうちに行動と結びつき、その状況が現実化されやすくなることが明らかになっています。それは考え方と行動が相互に影響し合っているからなのです。であれば、先のわからないことを心配したり不安になったりすることは、わざわざみずからの力を制限し、結果を悪くしていると言えます。そこで今回は、どのようにしてネガティブな思考をポジティブな思考に変えていくのかをテーマとして取り上げてみましょう。
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