2024.10 KENDOJIDAI
取材=栁田直子
「主将としての責務」。これが渡邊選手にとって世界大会を戦うモチベーションとなっていたのかもしれない。世界大会を戦った者にしかわからない重圧との戦いとはー。
渡邊タイ
わたなべ・たい/平成4年熊本県合志市生まれ。阿蘇高(現阿蘇中央)から日本体育大に進み、卒業後熊本県警察に奉職する。全日本女子選手権優勝1回3位2回、全国警察大会個人優勝、全日本都道府県対抗女子大会2位など。今年7月の第19回世界大会女子団体において大将をつとめ、自身にとって3回目となる団体優勝を果たした。現在、同警察学校教官。剣道六段
万全の準備を行ない
臨んだ世界大会
あの試合は夢だったのかもしれない。そんな思いがよぎるほど、無我夢中で駆け抜けた3年間だった。現在、大会が終わって1か月。今はどこか、寂しい気持ちとともにほっとした気持ちがよぎる。「今は大分落ち着きました。職場である熊本県警察学校の学生や職員の方々が学校の正門で出迎えてくれて、良い報告ができました。そのあと全日本都道府県対抗女子大会や九州管区警察大会があったため、7月の終わりごろになってようやく一息ついたところです」
普段は警察学校の教官として勤務する渡邊選手。世界大会前も授業があり、合間を縫って稽古を行ない、バタバタとしたイタリア渡航だったという。
「周りの方々に支えてもらってようやく大会当日を迎えられたという感じでした。振り返ってみて、本当にあっという間だったと思いますね。合宿を重ねている時は大会までの期間がとても長く感じたのですが……。試合は楽しみなのですが、やっぱりどこかで試合をするのが怖い、不安な部分があったからなのだろうと思います」
とくに1年前からは1か月に1回という頻度で強化合宿が行なわれ、メンバーとともに力を合わせて稽古を乗り切ってきた。大変な思い出でもあるが、それはすべて世界大会団体優勝という大目標に向かうためのものだった。
大会当日、日本女子チームは快進撃だった。トルコ、フランス、ドイツとの予選リーグをいずれも5―0で快勝。決勝トーナメントにおいてもハンガリー、イタリア、オーストラリアを5―0で撃破し、韓国との決勝に臨んだ。
当日は主に大将をつとめていた渡邊選手。後輩たちがすべて勝ち切ってきたわけだが、韓国戦に限ってはレベルが違う。優勝に向けて日本選手の研究をし尽くしていた。
「私の対戦相手の車(チャ)選手は第16回大会(日本)で対戦した相手です。この日のために稽古を積んできたことは、ひしひしと伝わってきました」
第16回、第17回大会も出場している渡邊選手だが、いまだ韓国戦において圧勝を経験していない。蓋を開けてみなければどうなるかわからなかった。
ただ、日本の編成は盤石だった。先鋒に松本智香選手、次鋒に高橋萌子選手。二人とも神奈川県警所属で、世界大会を知り尽くしている選手。相手に主導権を渡さず、松本選手がメンの一本勝ち、高橋選手がメン、コテを連取して二本勝ちした。王手をかけた日本は、中堅戦で竹中美帆選手(栃木県体育協会)が手堅く引き分け、2―0のまま副将戦へ。取らなければあとがない韓国サイドに対し、出場2回目の妹尾舞香選手(福岡県警)が圧倒的な力を発揮し二本勝ち。この日、日本女子チームは大将の渡邊選手に1度も勝負をまかせることなく勝ち切った。「すごい後輩たちですよね。安心して見ていました。圧勝という内容は私も1度も経験していません」
終わるまではわからない。小心翼々の心境に徹し、最後まで戦い抜いた。
「前監督の宮崎正裕先生、現監督の竹中健太郎先生からも『終わるまでわからない』と常々ご指導いただいていました。世界大会とどう向き合っていけばいいのか、メンバーたちとともに準備できたことが、良かったのではないかと思います」
大将戦では、決勝に立てる喜びと楽しさを忘れずに戦うことができた。会心のコテとメンを決めて二本勝ち。実力を遺憾なく発揮した。優勝というかたちで報われた瞬間、本当に良かったと安堵の思いがあふれたという。
チームを一つにするために
厳しく指導をしてきた
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