剣道のメンタル強化法 連載

矢野宏光:剣道のメンタル強化法 vol.5 明確な目標を設定する方法とは

2020年2月20日
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 剣道の稽古において、どんなにすばらしい剣士であっても、ただ漠然と毎回決められた稽古内容を実行するだけでは、どうしてもマンネリ化してしまいます。「マンネリ(mannerism)/マンネリズム」とは、思考・行動・表現などが型にはまり、新鮮さや独創性がなくなることです。

矢野宏光(やの・ひろみつ)
1968(昭和43)年 秋田県湯沢市生まれ。東海大学体育学部武道学科剣道コース卒業。東海大学大学院修士課程体育学研究科(運動心理学)修了。名古屋大学大学院博士後期課程教育発達科学研究科(心理学)満期退学。現在、国立大学法人高知大学教育学部門 教授。スポーツ心理学のスペシャリストとしてさまざまな競技のサポートに取り組むと同時に同大学剣道部監督。また、スウェーデン王国剣道ナショナル・チーム監督(2004~2009)など国際的にも活躍。一貫して「こころ」と「からだ」のつながりに焦点をあてた研究活動を展開。全日本東西対抗剣道大会出場(優秀試合賞1回)など。剣道教士七段。

 このマンネリを打破するために重要なことは、「目標設定(Goal-setting)/ゴールセッティング」です。目標を持たずに努力を続けることは、出口の見えない真っ暗な森を延々と歩くようなもの。そんななかでの目標とは、暗闇の向こうに見つけた一筋の光なのです。
 目標は長期・中期・短期に分けて設定し、いずれも現実味のあるものでなければいけませ ん。あまりにも現実とかけ離れた目標は、かえって無気力を招きます。がんばったらなんと か達成できるレベルに目標を設定することが重要です。

 目標設定ができたら、次に「稽古計画の作成」を行ないます。ポイントは、目標までの期 間をいくつかのピリオド(区切り・段階)に分割し、その中での目標や稽古内容をさらに詳 細に決定することです(例①一年=四ヶ月×三→②四ヶ月=一ヶ月×四→③一ヶ月=一週間×四)。たとえば「一年後の昇段審査に合格する」という長期目標を設定すれば、次に一年 間をいくつかのピリオドに分割し(四ヶ月×三)、中期目標を設定します。仮に、この中期目標のひとつが「対応技の強化」だとします。さらに、この四ヶ月(十六週)を一ヶ月(四週)ずつに分割し、短期目標を設定します(「面に対する応じ技」「小手に対する応じ技」「返し技」「抜き技」など)。

 サラリーマン剣士の場合、稽古時間は充分にとれないのが現状でしょう。週二回のペースで稽古をしても、一ヶ月で八回。八回の稽古で目標課題を達成するためには、「マンネリだ」なんて言っている暇はないはず。稽古の質を上げるために重要なことは、今現在すべきことが明確になっているかどうかです。

 もちろん、前記は一例です。実際には、自分に合うようにピリオドの構成や目標を変えて稽古計画を作成してください。

 作成した稽古計画の効率を上げるためには、一回の稽古をマンネリ化させないことが大切 です。このポイントは、稽古内容に「変化をつける」ことです。基本的にはいくつかの稽古メニュー・パターンを用意して、それをローテーションしながら実行することが有効ですが、その他にも

①普段の稽古メニューの順番を逆にする
②曜日によって稽古内容を変える
③稽古の場所や時間を変える
④出稽古によって稽古相手を変える
⑤剣道以外のトレーニングと組み合わせるなど工夫次第でさまざまアレンジが可能です。

 みなさんは、二〇〇二年から二〇〇五年にかけて大活躍した格闘家ボブ・サップを覚えているでしょうか? 彼のトレーニング術はとてもユニークで、その一つを紹介します。それは、トレーニング・メニューが書かれたカードを数枚準備し、そのカードをトレーニング前にだれかに引かせるのです。どんなトレーニングが出るのか、それは他人が引くカード次第というわけです。そんな遊び心のあるトレーニング術も、マンネリ防止のヒントになるかも知れません。

 また、いつも話し合える稽古パートナーがいることも有効でしょう。独りでなくだれかと一緒だったら、うれしさや苦しさを共有できますからね。「昇段審査合格計画」とタイトルを付けたノートを見ながら稽古計画を考えるだけできっと意欲がわいてくるはずです。ですが、くれぐれも近所の居酒屋などで稽古計画を立てないように。とてつもなく壮大でハードな目標設定と稽古計画になってしまいますから。

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