剣道の技 手の内

「力が入る」を克服する(石原和彦)

2023年7月3日

2022.9 KENDOJIDAI

剣道において力みは大敵。

神奈川において長年高校生指導に尽力してきた石原教士に、力みの解消方法として「手の内を利かせる稽古」「緊張感をもった稽古」の2つをご紹介いただいた。力みは稽古によって改善できる。

石原和彦教士八段

いしはら・かずひこ/昭和36年東京都生まれ。日本大学高から日本大に進み、卒業後、神奈川県高校教員となる。現在、県立生田高総括教諭。神奈川県剣道連盟常任理事、川崎市剣道連盟副会長など。

 学生の時分、先生に稽古をお願いして最後、疲れがピークとなっているところで切り返しをお願いすると、体の力が抜けて、スムーズな肩・肘・手首の遣い方を学ぶことができました。「最後の面打ちが、良い面打ちになるんだよ」という教わり方もしました。しかし現在は体力・気力の極限になるまで追い込んで稽古する機会が少なくなっています。

 ただ、「力を入れる・緩める」といった動作そのものは、剣道以外でも学ぶ機会は沢山あります。たとえばゴルフです。クラブを握る手が力み過ぎればボールは明後日の方向に飛んでしまうでしょう。私は書道を嗜んでいますが、真っ直ぐな線のライン、留め、払いといった動作にも「力を入れる・緩める」といった要素が入っています。料理などでも、お寿司屋さんの包丁さばき、中華料理屋さんの中華鍋の扱い方なども、巧みに力を使っているから美味しいものが出来上がるのではないかと思います。

 剣道という競技に関して言えば、心の面が大きく作用します。ですから「稽古ではうまくいったが、試合ではうまくいかない」というケースがあります。緊張で力が入るためです。うまくいく時というのは、イレギュラーな事態が起きたとしても冷静に対処できるものです。手前味噌で恐縮ですが、かつて昇段審査で相手に倒されてしまったことがありました。そこで不思議と慌てないで対処ができ、合格をいただくことができました。

 剣道では、試合・審査の前にはどうしても緊張してしまいます。「次の相手は強豪校」「相手の体格が良い」といった相手への恐怖心、「がんばってね」「期待しているよ」といった周囲からの期待(プレッシャー)、「前日体調不良になってしまった」など試合前に考えすぎてしまう集中力の散漫など、ネガティブな要素によって気持ちは萎縮してしまいがちです。しかし、そのような要素を踏まえながらも、心と体が一致した時に余計な力みのない、理にかなった技が出るのではと思います。

 実際に、「力を入れる・緩める」稽古としては、いくつか対策や稽古法があると考えます。

 稽古でいえば、「手の内を利かせる稽古」がそれに該当すると思います。また、素振りや打ち込み、トレーニングなどでも繰り返し意識して行なうことで体がつくられ、体幹が安定し無駄な力が入りにくくなります。

 心の面で言えば、やはり本番さながらの緊張感をイメージしながら稽古を行なうことだと思います。練習試合や立合稽古など、試合や審査と同じような環境下で行なう他、審判員の設置など第三者からの目線も大事なことだと思います。

 日々時間を費やして稽古を行なっても、目標である試合や審査の時間はわずか数分です。ほんの少しの間、集中力を高めて自分の力がよどみなく発揮されるように、日々鍛えていきましょう。試合でも稽古でも、何かを感じたらそこから自分なりに工夫を加え、自分のものにすることが大切です。

手の内を利かせる稽古で力みを抑える

「手の内を利かせる稽古」と前述しましたが、手の内が利いているということは肩・肘・手首を正しく遣うことにもつながります。手の内を利かせる際、締める動作は行なえど、実際には力はそれほど入っていないと思います。部活指導の際もそのような説明の仕方をしています。

杖で手の内を確かめる



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