2025.5 KENDOJIDAI
構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦
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段位審査から遠ざかる時期を経て、最難関の八段審査に一発合格を果たした本田清澄教士。これまで稽古相手のほとんどは、外部指導をしている菊池南中学校の部員たちだった。「体に勢いを生んで、冴えのある打突を目指すこと。これは中学生でも私の年代でも変わりません。稽古では子どもたちと一緒に、つねにそこを意識してきました」。本田教士の長年の指導経験から導き出された、打突に勢いをつける方法論を聞く―。
本田清澄 錬士八段
ほんだ・きよずみ/昭和34年生まれ、熊本県出身。小学5年時に剣道をはじめ、菊池南中学校から八代市東高校に進学する。高校時代は玉竜旗や国体で優勝するなど活躍。東京農業大学2年時に、家業を継ぐため中退。昭和56年より菊池南中学校の外部指導をはじめ、現在まで40年以上にわたって同校を指導する。教え子には緒方有希や岩下智久など活躍者も多い。
外部指導員生活数年
中学生との稽古で八段昇段
昨年8月、八段審査に合格させていただきました。私にとって昇段審査は、七段に合格した45歳以来、20年ぶりのことでした。
「なぜ審査を受けてこなかったのですか」とよく聞かれますが、別段、理由があったわけではありません。私は大学を中退して家業を継いだ21歳のときから40年以上、母校である菊池南中学校で外部指導をしております。今は部員も少なくなりましたが、指導をはじめた当初は剣道ブームの最中でもあり、多くの部員が在籍しておりました。熊本県内では1、2を争う力を持っており、週末になればさまざまな中学校へ遠征に行くなど、自分の時間を持つこともままならない時期が続いたと記憶しています。
段位については、五段まではすんなりと進みましたが、六段以上は中央審査ということもあって受けるのを辞めていました。たまたま同級生が菊池南中に教師として赴任してきたタイミングで、一緒に段位審査を受けようということになり、六段を受験しました。39歳のときだったと思います。それから七段をとり、またも20年近く、段位審査からは遠ざかることになりました。八段審査は合格者が1%にも満たない過酷なものです。私のような中学生としか稽古をしていない人間が受かるわけもないと思い、それなら子どもたちの指導に全力を注ごうという考えでした。
そんな私がなぜ今回審査を受けようと考えたかと言えば、それは近年になり、指導する中学生だけでなく、若い剣士と稽古をすることが増えたからです。加えて、稽古をしていると、ここが痛い、あそこが痛いという年齢になりました。知り合いが膝の手術をして審査挑戦を諦めたという話を聞き、体が動くうちに一度挑戦をしてみるかという気持ちになったのがきっかけです。八段審査に向かうことを決めてからは、菊池高校で行なわれている菊池郡市の稽古会に顔を出すようになり、毎日課題をもって稽古に取り組むようになりました。
とはいえ、私の中心はやはり中学生との稽古です。中学生とはいえ、3年生ともなれば良い稽古相手になります。毎日手を合わせているのでこちらの意図も筒抜けであり、技を綺麗にかえされる場面も少なくありません。そのたびに、「まだまだだな」と自分に言い聞かせるわけです。もちろん、上手の先生に掛かる稽古は必要だと思いますが、大先生に気で圧されて何もできなかったという経験が、どれだけ実力向上に役立つかは難しいところです。その気迫に対して割って打つようなことができればよいのでしょうが、そう簡単なことではありません。私は中学生と五分の稽古を繰り返す中で地力を蓄えたことが、今回の合格にもつながったと考えています。
私が稽古の際にいつも考えているのは、自分の段位に見合った剣道を実践するということです。昔話になりますが、初段をとったときに当時の先生から「初段に合格したから初段じゃないんだぞ。初段合格は、これから初段の修行をする入り口に立ったということだ」という話をいただきました。この言葉が私の中にはずっと残っており、六段のときは六段らしく、七段になってからも八段を目指すというよりは、七段らしい剣道を求めていこうという気持ちで稽古に取り組んできました。その結果が、合格へとつながったのだと感じています。
相手に正面から向かう気迫と攻め
基本どおりの打ちで冴えを求める
今回のテーマである「鋭い打突を身につける」ことは、私が中学生に指導をする際に気をつけていることでもあります。勢いがなければ打突に冴えも生まれませんから、一本を取ることもできません。「勢い」というととても抽象的な言葉ですが、詰まるところは構えたときの気勢・気迫、そこからの攻め、捨て切った打突とその冴え、ということになるのかなと思います。中途半端な技はやはり軽いですし、捨て切って打ったときこそ、勢いも冴えも出ると考えています。
では、鋭い打突を身につけるためにまず何を意識すればいいのかといえば、それは構えだと思います。中学生に指導している際によくいうのは、左足の向きです。「あなたの右足はまっすぐ相手を見ているけど、左足はどこを見ていますか?」という話をするときは、だいたい左足がいわゆる撞木足になっています。左足が外側を向いていると、体は右足と左足の間に向かって進んでいきます。これが打突時であれば、体が進みたい方向とは違う方向に無理に打ち出そうとするわけですから、よく見るような体が流れた打ちになってしまうわけです。
体が流れた打突は、一見素早く打っているように見えることもありますが、勢いという面では心許ないところがあります。これは相手が止まった状態から同じように打ってみるとよく分かります。攻め合いの中で、相手が出てきたところに打つ場合は良い打突音が響くのに、止まっているとそれが鳴らない。その理由は、打突に勢いがないからです。相手の勢いを利用するのではなく、自分の勢いだけでもしっかりと冴えのある打突にしていかなければなりません。そのためには、やはり右足も左足も、相手を向いている必要があるわけです。
そしてもう一つ、鋭い打突を身につけるために重要なのが、
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