稽古方法

本番の準備(天野康寿)

2026年6月8日

令和4年11月に最難関剣道八段審査を突破した天野教士。「左足を継がずに打つ剣道」を基軸に古豪明大中野高校を再び強豪校に育て上げた。本番で力を発揮するには正しい形の習得とそれを出し切る自信が重要と言う。

天野康寿 教士八段

剣道は形文化
正しい形を身体で覚える

 福岡工業大学城東高校時代は中野直先生、東海大学では網代忠宏先生から基本を土台とした左足を継がない剣道の大切さを教えていただき、正しい形の習得こそが上達の近道であることを実感し、生徒とともに稽古を重ねています。

 なぜ左足を継がない剣道が大切なのかは説明するまでもありませんが、機会と感じた瞬間に技を出すには足を継いでいる時間はありません。剣道には歩み足、送り足、開き足、継ぎ足と4つの足さばきがあり、継ぎ足は一足一刀の間合よりやや遠い間合から打突する際に用いますが、この足遣いを多用すると、継がなくてもよい局面でも継ぎ足をする悪癖がついてしまいます。

 剣道は無駄な動きを省略し、最短距離で打つことが大切です。そのためには足さばきや竹刀操作などで合理的な動きを身につけておかなければならず、正しい形を身体で覚えることが大切と考えています。構え方、足さばき、打突等には正しい形があります。稽古ではまずその形を確認し、身につけることを一つの課題としています。

 本番は応用動作であり、攻めて相手の隙を捉えなければ有効打突は生まれません。「打ちたい。打たれたくない」という気持ちが生まれ、自分から構えを崩してしまうこともあります。正しい形を身体で覚えることを習慣化させると、失敗したとき、確認・修正することができます。

 私は指導をする際、「速く打て」とは指示しません。正しい構えから、正しい竹刀操作で正確に打ち切り、残心まで淀みなく行なうことが大切であり、極限の圧力がかかる本番で見事な一本を打つには、地道な基本の積み重ねがなにより必要になると考えています。

 また、十人十色の教えの通り剣道は全員がまったく同じことをすることはできません。基本という基軸はありますが、そこからそれぞれが得意技を身につけ、それを大いに伸ばしていくことが大切です。得意技があると本番で自信をもって戦うことができます。

 明大中野の稽古では最後に、私が元立ちをつとめ、打ち込み稽古を受けるようにしています。打たせる過程で、間合や機会、打ち方などを確認して、生徒に工夫・研究をうながしています。

ケガをすると停滞する
身体のケアにも気を配る

 本番で力を最大限に発揮するには、地道に稽古を続けることが大切ですが、ケガをしてしまうと稽古そのものを続けることができなくなってしまいます。明大中野の場合、稽古時間に限りがあるので、稽古時間内で最大限の効果を得るために身体のケアはもちろんのこと、授業や私生活もしっかりとただすことを求めています。

 新型コロナウイルス感染・拡大の影響から一時期、十分に稽古ができなくなりました。私は、コロナ前は母校東海大学に戻り、学生や先生方と稽古をお願いする機会をつくっていましたが、コロナを機にそれができなくなり、八段審査は高校生と稽古をすることで臨みました。コロナ禍では発熱等をしてしまえば、受審することもできません。体調管理には人一倍気を使うようになり、その習慣がいまでも続いています。

いつでも打てる足を整えて構える

 正しい形を覚えるには、まず構えを整えなければなりません。中段の構えは、すべての構えの基礎となる構えであり、いつでも力みなく技を出せる状態にすることが理想です。

 竹刀は左手の小指を柄頭いっぱいにかけて上から握り、小指、薬指、中指の順に締め、人さし指と親指は軽く添えるようにします。両足のつま先は前方を向き、両足を前後に開きます。私の場合、左足に少し多めに体重を乗せると重心のバランスが良く、足さばき、打突も円滑になると感じています。足裏の接地面全体に体重をかけるイメージを持つことで、溜めが効き、しっかりと踏み切ることが可能となります。

 実戦では相手がいるので、どうしても「打ちたい。打たれたくない」という気持ちが起きます。このような状態になると上半身に力みが出て、円滑に技が出せなくなります。また打ち気が強くなると足幅が広がり、手元が浮き、左手の納まりが悪くなります。このような状態から有効打突の要件を満たした技を出すことが難しくなります。このような状態をいかに少なくするかが、平素の稽古での課題になると考えています。

物打ちで正確に捉える。
正しい軌道を確認して刃筋正しく打つ



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