稽古方法

本番の準備(権瓶功泰)

2026年6月22日

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2026.6 KENDOJIDAI
取材=栁田直子

権瓶教士は幼少期より全国クラスの大会で活躍し、警視庁に奉職後は全国警察大会団体1部優勝などの実績を残した。一昨年、八段合格。昨年は国スポで決勝進出の原動力となった。

長年の剣道人生で得た教訓の一つに、「万全の体勢で臨む」ことがあるという。そのために、目標の試合・審査までの期間を逆算し、やるべきこと一つ一つを細かく設定して取り組んできた。そうして、本番までに「ここまでやったのだから」という、強い気持ちで臨むことができたという。

権瓶功泰 教士八段

ごんぺい・のりやす/昭和52年新潟県生まれ。新潟明訓高から国士舘大に進み、卒業後警視庁に奉職。全日本選手権出場、全国警察大会団体1部優勝、横浜七段戦3位、全日本都道府県対抗大会出場、全日本東西対抗大会出場、国スポ2位など。現在、警視庁剣道指導室教師・第60期武道専科担当教師。

 私は現在、警視庁で剣道特練員や剣道指導者の卵である武道専科生を指導する立場にありながら、余暇で自らの研鑽にも励んでいます。また、平日夜には少年剣道の指導にも携わっています。

 指導する上で、あるいは自分が試合に臨む上で、伝えていることの一つに、「試合や審査に万全の体勢で臨めるようにすること」があります。

 万全の体勢をつくるためには、目標・目的の意識を明確にし、それに向けて稽古を計画的に行なうと、上達もはやくなります。

 剣道を行なう上で、多くの方が大小さまざまな目標を設定していると思います。私の場合は大きく3つに分けて稽古に反映させています。

1、小目標(その日の稽古で心掛けることを都度定める。「構えを崩さない」など)

2、中目標(身近な試合や審査での目標設定。「次の大会で優勝する」「〇段に合格する」など

3、大目標(剣道を通じて学んだことを社会に生かす。剣道は目的ではなく手段である)

 この大中小の目標を立てた上で、目標を達成するために何をすればよいのかを考えていきます。

 ピリオダイゼーションという言葉があります。主にトレーニングの分野で使われる言葉ですが、目標を達成するためにトレーニングや運動プログラムを計画的・段階的に分けて実行することでより成功に近づくものです。私の場合、左記の3つのサイクルを大切にしています。

1、準備期(土台作り。技術・技能の向上、メンタルを整える、など)

 年間を通して、挑戦する予選や演武大会の立合は大体日程が決まっています。その日程を踏まえながら、今の自分に何が足りないのか、何から補うのか(構え・足さばきなどの見直しや、技や攻め方の工夫・技の引き出しを増やすなど)を考えながら調整を進めます。自分の長所・短所を把握できれば「今の自分に必要な要素や稽古法」もおのずと考えられると思います。

2、試合・審査期(本番の日にパフォーマンスのピークを迎えるようにする)

 技術的なチェックに加え、気持ちを整えることも大事な点です。準備期に万全の準備を整えることができれば、気持ちも整い、いざという時も「こうなったらこうする」といった手段が思い浮かびやすいと思います。

3、移行期(心の調整・身体を休める。大会の反省を行ない、新たな目標を設定する)

 目標とする試合が終わったとして、次の日から気持ちを切らさずに稽古に臨むようにしています。昨年国スポに出場した際は八段合格から1年半ほどのことで、練習試合や打ち込み稽古を経て、5人制の団体戦で必要な戦い方について調整を重ね臨んだ大会でした。充実した試合ができた実感がありましたが、そのような試合の後は気持ちの切り替えが難しいものです。体や心を休めて準備期に入ることが必要で、私の場合は体を休める場合は休日をつくるよりも、1日の稽古の本数を減らすなど量を減らして調整するようにしています。逆に、精神的に疲れているようでしたら休養を取るようにしています。

 この移行期で大切なことは、「生活則剣道」の生活リズムを崩さないことです。私の場合、少年剣道の指導にもなるべく顔を出すようにしています。子どもたちに指導をするのであれば、より自らを律して見本を示さなければいけません。子どもたちとの触れ合いによって、常に気持ちを高めて剣道に臨めています。

体調管理
充実した体が充実した試合をもたらす

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 万全の準備は、稽古だけではなく日常生活の心がけからも生まれると考えています。

1、怪我の防止・自分の状態を知る

 まず体調管理を行ない、毎日の稽古を充実させる体づくりが求められます。40代、50代になると怪我なども多くなります。故障を抱えたまま試合・審査の日を迎えることになった時、それをハンディキャップと思わず、「現在の時点でできる最高のパフォーマンスを行なう」と思える自分をつくることも大切であると思います。

2、ランニングを取り入れ体のバランスを整える

 稽古以外でも、少しランニングやウォーキングを取り入れるようにしています。ランニングは体づくりの基本になります。体力・筋力の確保は剣道にとっても大切なことだと思います。

3、充実した気勢のための喉の手入れ

 有効打突の条件の一つに「充実した気勢」が挙げられます。そのために「声がしっかり出る状態」にも留意するようにしています。声が出ないと力が出ません。そのような状態にならないよう、こまめにのど飴やマスクなど使ってケアをする必要があります。

4、剣道具・竹刀の点検

 日常はもちろんですが、試合・審査前も使用する剣道具や竹刀の点検を行ない、準備を怠らないことで、試合当日に余計な心配をすることなく臨むことができます。私の場合は、常に剣道着・袴を2着ずつ用意しています(汗をかきすぎた時や、万が一忘れた時のために予備を常に車に積んでおきます)。清潔感のあるもの、藍色が落ちていないものを選び、穴が空いたもの、色褪せたものは避けています。このような準備をあらかじめしておけば、気持ちも落ち着きます。

5、試合の時間に合わせた生活

 剣道特練員であった頃、警察大会は第1試合が朝9時20分から始まるので、その時間に最大のパフォーマンスが発揮できるように調整をしていました。最近では、八段審査において、若手の審査時間が夕方にありますので、その際には午後や夕方に稽古を行なうようにしていました。重きを置くところの時間に稽古を行なう体づくりも大切だと思います。

 態勢を整えるために考えられる点全てを万全にすることが、「ここまでやったのだから」という自信にもつながります。気持ちの安定のためにも、日頃から心がけていきたいと考えています。

日常の稽古
本番をいつも意識して行なう

「常在戦場」という言葉があります。長岡藩の藩訓で、平時であっても戦場にいる意識を持つことです。試合や審査は、試合開始の合図があってから始まるのではなく、常日頃からの稽古からつくる必要があると思います。

1、気持ちづくり

 剣道着を着用した時点で気持ちをしっかりつくります。そして、いざ稽古が始まる時、最初の礼から蹲踞→立ち上がるという流れの中で集中できると、初太刀の流れが雑になりません。最初の礼から3歩進むところで気持ちがつくれると、試合での気持ちも変わってくると思います。この意識については、八段審査や昨年の国スポでも成果を感じました。

2、構え

「どこからでも来い」という気持ちで構えることを大切にしています。朝稽古前に鏡を見ながら剣先の高さや拳の位置などを確認します。「八幡座に神宿る」という言葉もあります。八幡座とは、昔武士がかぶっていた兜の「兜鉢」の頂点に存在する穴と、その周囲の装飾を指します。適正な姿勢を保ったまま、上から見下ろすような、大きく見せる意識で相手と気競り合いを行ないます。

3、左足を打てる状態にする

 いつでも打てる状態をつくることが理想で、そのために、「左足をつくって打つ」のではなく、「打ちたいと思った瞬間にはすでに打てる足になるよう、左足をつくる」ことを心がけています。

 この二つの表現は、似ているようで全く異なります。前者は「打突の好機が来たら打てる体勢の左足をつくって打つ」であり、後者は「打突の好機が来た瞬間にはすでに左足がつくられている状態」を指します。後者の方が、すぐに対応できる体勢がつくれると思います。この状態がつくれれば、おのずと「どこからでもこい」という強い気持ちにもつながります。

 そのために、常に左足のかかとを少し下げた状態にし、母指球に体重が乗るようにしています。けり出しやすい体勢をつくるためです。私のように体が大きな人は、左足裏と床の接面が少ない状態でけり出すと体が前に出ないので注意します。

4、攻め入る際の注意点

 剣道では立ち上がりから、右に旋回しながら攻め入るかたちが多いと思います。この時、剣先の力が弱まりやすいので、左手の甲を相手の剣先に押しやる意識をもち、相手と切り結んだ状態を維持します。

遠間から攻める意識をもつ

 素振りや打ち込み稽古では、有効打突の条件を念頭に置き、刃筋や間合などの重要な要点を意識して行ないます。

1、素振り

 前進面を行なう際、試合での「小さな面」にも生かせるように、振り下ろした時の左拳の位置がみぞおちの延長線上にあるようにします。腕の高さは、小さい面でも大きく打つ面でも同じになるように、左手が上に上がりすぎないようにします。そうすることで、打突後に右に体がぶれたり、左手がうわずったりしなくなります。

 左右面を行なう際はとくに45度の角度を意識します。素振りの段階から刃筋を意識した面を打てるようになると、打突音が変わります。

2、遠間から攻め入る稽古

 稽古を行なう際、常になるべく遠間、立ち上がった際の間合から打ち込むようにしています。この間合から攻め合いを行なうことが理想です。攻め合いを学ぶことはもちろん、「この間合ならこのくらいの攻め入り方、このくらいの振り上げの大きさだと面が届く」といった勉強も行ないます。

 また、小手技についてですが、筒の奥を打つ意識を大切にしています。本番では、こちらの小手を抜く、後ろにさばくといった対応をされることも考えられます。奥側を狙うことで、打突部位をより的確にとらえられると考えています。

3、連続の打ち込み稽古

 私が試合前に必ず行なうのが、連続の打ち込み稽古です。

「面体当たり引き面→面体当たり引き胴→小手面体当たり引き面→小手面体当たり引き胴→小さく面」の流れで行ないます。とくに気を付けているのが最後の面で、引き胴で下がったところから正しく打てる間合を確認しています。

 最後に、試合・審査の直前のメンタルコントロールについて述べたいと思います。

 剣道はメンタルが大きな影響を及ぼす競技です。気持ちを安定させることが目標達成につながることは言うまでもありませんが、私も「安定させるためにどうベストを尽くすか」をよく考えています。

 若手の頃は、試合に入る直前に、仲間や先輩から背中を強く叩いてもらうことがルーティーンになっていたのですが、社会人の試合になると一人で戦わなければいけない時は必ずありますので、その習慣はやめました。音楽を聴いてみたり、心の中で大丈夫とつぶやいてみるなど、一人で気持ちを高められる方法にシフトしています。

 あとは剣道具の点検です。胴紐が試合途中でほどけると、気持ちの縁が切れて、仕切り直しになります。こちらが有利な状態で試合を進めていたとしても、そこでいったん中断されてしまうと、相手に勢いをもっていかれることもあります。後悔しかねない心配事は、事前になるべく排除します。

 あとは、試合・審査を無我夢中で行なうこと、相手に入りこむこと、雰囲気にのまれないことを大切にしています。「稽古をし尽くして」本番に臨めば、おのずとそのような気持ちになると考えています。

 以上、私が稽古・試合に臨むにあたっての「準備」の一端をご紹介しました。自分がこれまでの剣道人生で得た経験を後進に伝えると同時に、今後も自身の研鑽に励んでまいります。

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