※2011年6月号の記事です。プロフィールも当時のものを掲載しています。
「ためのある攻めが強いのではなく、強い攻めがためを生み出すのだと思います」。水田教士はそう語る。「ため」は多くの剣道家がぶつかる大きな壁の一つ。主宰する「水田道場」で幅広い年代の指導にあたっている水田教士に、自身の経験を踏まえた「ため」の理解と、道場で行なっている「ため」につながる稽古の方法を解説してもらった。
水田重則 教士八段

みずた・しげのり/昭和26年佐賀県生まれ。龍谷高から中京大を経て、茨城県に教員として赴任する。全日本選手権をはじめ、全国教職員大会や国体など全国大会で活躍。平成10年に八段昇段を果たす。現在は「水田道場」を主宰し、後進の指導にあたっている。
打突動作の「ため」と気持ちの「ため」
「ため」とはなにか、「ため」のある打突を手に入れるにはどうすればよいのか。大変に難しいテーマですが、私なりにこれまで剣道を続ける中で得た、「ため」についての理解をお話しさせていただこうと思います。
「ため」には大きく分けて二つの種類があると思います。一つは打突動作としての「ため」であり、もう一つは気持ちの「ため」です。この二つの「ため」が同時に作用してはじめて、「ためのある打突」ということになるのだと思います。
では、打突動作としての「ため」とはどういうことか。私は道場にくる方々に、よくこんなたとえを出しながら話します。
「ハエたたきで蠅を叩こうとするとき、あなた方はどうやって蠅をつかまえますか。ただやみくもにハエたたきを振り回すだけでは、決して蠅をつかまえることはできません。みんな蠅が止まったところでジーッとためて、一瞬にしてパッとハエたたきを振り下ろしているはずです。“ため”を意識するときは、そんな気持ちで取り組んでみてはどうですか」
たとえはあまりよくないかもしれませんが、なんとなくイメージしていただけるのではないかと思います。
一方、気持ちの「ため」についてはこう話します。
「剣道には『四戒』というものがあります。驚く、懼れる、疑う、惑う。これらを心に起こさない稽古が、剣道家には求められます。四戒は、打突の機会と言い換えることもできます。ということは、相手に四戒を起こさせることが、打突の機会を得るためには大変に重要なことです。思い浮かべてみてください、ただどんどんと打ってくる相手に対して、あなた方はこの四戒を感じるでしょうか。それよりもグッと剣先を利かせて、いつ何時打ってくるかわからない、そんな攻めを受けたときに、この四戒を強く感じるのではないですか」
私の道場は小学生から大人まで、幅広い年齢層の方々が訪れます。剣道の教えはわかりづらい表現が多いので、このようなかたちでできる限り噛み砕いて、頭でイメージしやすいようにしています。この二つの「ため」をイメージしながら稽古をすることで、少しずつですが「ためのある打突」に近づいていけるのではないかと思います。
しっかりとした下半身が「ため」を生む
残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます
No Comments