剣道の技 攻め

相手の意図を読み、 打たれたくないと思わせる攻めを実践する

2020年8月17日

2020.5 KENDOJIDAI

「相手の意図を理解し、その意図に合った技を考えていくことが大事」と鍋山隆弘教士は言う。 選手や指導者としての豊富な実績から導き出された技の組み立て方について、鍋山教士にうかがった―。

鍋山隆弘教士八段

なべやま・たかひろ/昭和44年生まれ、福岡県出身。今宿少年剣道部で剣道をはじめ、PL学園高から筑波大へと進学。学生時代はインターハイ個人団体優勝、全日本学生優勝大会優勝など輝かしい戦績を残す。大学卒業後は同大大学院を経て研究者の道へ。現在筑波大学体育系准教授、筑波大学剣道部男子監督

打たれたくないと思っているのか打ちたいと思っているのか

技の組み立てを考えたときに、私が一 番大事にしているのは相手の思考であり気持ちです。相手が打たれたくないという後ろ向きの気持ちになっているのか、 それとも打ちたいという前向きの気持ち になっているのか。その状況によって攻め方も変わりますし、最終的に決める技も変わってくると思います。自分が決めたい技を優先して攻めを組み立てる人もいると思いますが、私自身、技に固執し過ぎると良い結果に結びつかないことが多いと感じているので、できるだけそういった気持ちは置いておいて、さまざまな技を使った攻め口であり打突を心がけています。

相手との攻め合いにおいて、まず考えたいのは相手の意図を探ることです。たとえば私の場合、試合においてはほとんどの対戦相手が私の得意技が面であることを知っています。そうなると、蹲踞から立ち上がって対峙した瞬間から、相手は面を警戒した戦い方を展開してきます。その意図を理解しているかしていないかが技の組み立てには非常に大事になってくると、私はそう考えています。

前述したように、技を決め打ちしてしまうのはあまり好ましくありませんが、 人にはそれぞれスタイルというものがあります。私は面技を得意としているので、 最終的に面で一本を決めるためにはどうすればいいか、そのための攻め口というものをつねに考えています。小手技も胴技も、面で決めるための布石であることが多く、一本になるかどうかは別として、 しっかりとそれらの技を出していくことが、最後の面技につながっていくという考え方をしています。

相手が打たれた後に「やっぱり面だったか」と思うような攻め方が展開できれば、自分のなかでは合格点を出せるかなと感じています。相手の意図を汲み取った攻め方をするといった部分では、相手が打たれたくないという意識ならばそれに合った、反対に打ちたいと思っている場合にも、その意図に合わせた攻め方をしていくことが 一本を決めるための最善策だと感じています。

相手が打たれたくないと思っているのに、強い攻めで間合を詰めても、なかなか隙を見出すことはできませんし、 防御を固められてしまうでしょう。そんなときは、打たれたくないという気持ちの裏を読み、下を攻めたり裏からの攻めで面をこじ開けていきます。相手が防御することを読み切って小手に変化するのもいいと思います。打ちたい気持ちが出ている場合は、相手の居着きを誘ったり、出ばなをとらえて打つことを考えます。これが私の技を組み立てる場合の基本的な考え方となります。

相手に避けさせない攻めを考える

では、そのような技の組み立てから実際にどのようにして技を出していくかですが、そこには相手との精神的な部分での優劣が大きく作用してきます。相手に気持ちで勝った状態が作り出せれば、相手は打たれたくないという後ろ向きな気持ちになります。

気持ちが五分か相手が勝っている状態で技を出していくと、こちらの隙をとらえられる可能性が高まりますので、とくに担ぎ技や連続技といった手元が浮きがちな技は出さないことを意識しています。攻め口の一例を挙げるとするならば、 構え合って一足一刀の間合から、左足を継がずに色なく面に跳んでみる。そうすると、相手は危険な間合であり距離感を認識します。相手に面を意識させておき、今度は小手を打って意識を下に下げさせる。

このように上下の攻めを散りばめることによって、相手の警戒心も分散され、 居着きが生まれやすくなります。この状 況で下を攻めたり担ぎ技を見せれば、相 手には何らかの反応が生じます。そこが 打突の好機となる場合が多く、私もその 一瞬に捨てきって面を出すことを意識しています。

小手で決める場合には、面を警戒させ て手元が浮く状況をつくっておかなければなりません。私がよく打つのは、ま 面を攻めて間合を詰め、相手が面を防ご うと手元を上げる瞬間に小手に変化する 技です。ここで大事になるのは、相手の手元が上がってから小手に変化しても遅いということです。手元が上がりきってから小手を打とうとしても、相手の反応が早ければ手元を下げられてしまいますし、後打ちをされる恐れも出てきます。

そしてもう一つ、相手の居着きや出ば なをとらえることを考えるならば、体のつくりを意識するとよいと思います。とくに出ばなは、相手に打ちたいと思わせる間の詰め方が大切です。そのためには、体が前傾してしまうと、相手が圧力を感じて防御にまわってしまうので、できる限り圧力をかけない攻めが重要だと考えています。

そのために実践しているのは、 上半身を平行移動させながら間を詰めることです。相手が攻められていると分からず居着いているのであればそのまま面に行きますし、単純に間合を詰めてきているだけだと感じ、反対に打って出てくるようなら出ばなをとらえます。攻めや技の組み立てで大事になるのは、 相手に避けさせないことでしょう。面や小手を打たれたくないと思わせない攻めを実践することが、相手の隙を生み、一 本へとつながっていくはずです。



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