※この記事は『剣道時代 2016年5月号』に掲載されたものです。
「どんな技でも同様と思いますが、技を出すときは捨てきった打突が当然であり、それが次の技につながると思います。なかでも小手はその妙技のひとつであり、二の太刀、三の太刀につながる技だと思いますが、近くにある部位だからこそとくに鋭い攻めを意識して打突する必要があると思います」と亀井範士は説く。
実戦では小手・面・突き、三つの技を組み合わせることが打突の好機をつくる。自在な剣遣いで相手の隙をとらえる亀井範士は「小手打ちも面打ちと同じ気持ちで打ち切ることが重要」と強調する。
プロフィール
亀井徹範士(かめい・とおる)/昭和29年、熊本県生まれ。九州学院高校から明治大学に進み、卒業後、熊本県警察に奉職する。熊本県警察首席師範を最後に退職。主な実績として全日本選手権大会2位、世界剣道選手権大会出場、全日本都道府県対抗大会出場、全日本東西対抗出場、全国警察大会一部優勝、国体優勝、全日本選抜八段優勝大会2位3位、全日本選抜剣道七段選手権大会優勝2回、全国選抜七段戦大会(岩手県剣道連盟主催)優勝3回などがある。
小手を警戒させる。剣先が開けば隙ができる
一般的に試合が強い選手は小手が巧みです。上位に勝ち上がる選手は小手を決め技として持っています。相手の竹刀の上から打つ、下から打つ、かついで打つなど打ち方は千差万別ですが、共通しているのは「小手が一本にできる」ということです。
このような相手と対戦すれば当然、小手を警戒します。無意識のうちに小手を打突されないように対峙するので、意識が手元に集中してしまいます。
手元に意識が集中すれば剣先が開きやすくなるので、そこに面や突きを出す機会が生まれます。
わたしは幼少の頃から剣道を続けていますが、子供の頃から小手一本で決めるということがあまりありませんでした。小手を打って近間に入って相手が崩れたところに面を打つという決め方でした。
小手は相手に打たれずにして、打つための攻めの一部と考え、小手を打ったのちに相手が下がれば面、突きなどに変化していました。いま現在も、その攻めはひとつのスタイルになっていると思います。たとえば「小手面」「小手小手面」「小手面面」などの複合技です。一本にする小手ではなく、次の技につながる小手技であり、小手技を出したとしても相手から打たれにくいと考えていました。
剣道には構えの隙、動作の隙、心の隙があります。動作の隙はどんな名選手にも必ずありますが、動作の隙がもっともないかたちで打てるのが小手です。面を打とうとすれば手元が上がり、打ったあとは脇があきますので、小手や胴を打たれる危険性があります。小手は打たれるリスクがもっとも少ないと考えています。出足を鋭くして相手を崩し、その崩れに応じて技を選択します。
ただ、技を出すときはボクシングのジャブを出すような気持ちでは相手に隙を与えてしまいます。小手、面、突き、すべて一本にする覚悟で打つようにしています。結果として技が決まらない場合は、次の技に展開していくのです。とくに高段位をめざすのであれば、一本に集中して技を出すことが求められます。
大切なのはすべての技を一本にする覚悟で打つことであり、その結果が新しい機会をつくるということです。小手は突きとの連動性がもっとも高い打突部位ですので、決まらなくても相手の崩しにはもっとも効果的な技です。
名選手が総じて小手が巧みなのはそのためであり、小手の精度が上がれば、それが剣道の力を高めることになると思います。
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