剣道の技

崩しの極意(鍋山隆弘)

2026年7月20日

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2026.8 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
*本記事に掲載された画像の無断転載・使用を固く禁じます。

「対人競技である剣道は相手の意図を感じ取り、こちらの意図通りに動かすことが重要です」と鍋山教士は強調する。相手の意識を揺さぶり、心を動かす上下の攻め方を鍋山教士が詳解する。

鍋山隆弘 教士八段

なべやま・たかひろ/昭和44年生まれ。福岡県出身。今宿少年剣道部で剣道をはじめPL学園高校から筑波大学へと進学。高校時代はインターハイ個人・団体優勝、大学時代は全日本学生優勝大会優勝など輝かしい戦績を残す。卒業後は、同大大学院を経て研究者の道へ。全日本選抜剣道八段優勝大会優勝、全日本剣道選手権大会10回出場、世界剣道選手権大会出場2回、国体優勝、全日本都道府県対抗準優勝、全国教職員大会優勝など。現在、筑波大学体育系准教授、筑波大学剣道部男子監督。体育スポーツ学博士。

 剣道を続けていると一度は「攻めがない」「ただ技を出している」などの指摘を受けたことがあると思います。剣道は対人競技であり、現象面には現れにくい心のやりとりから打突の機会が生まれるので、それがそのような指摘になると理解しています。

 それゆえ剣道は単に間合を詰めただけでは攻めたことにはなりません。間合を詰める過程で、相手が「面を打たれる」など、気持ちが動いたときに攻めが効いたことになります。攻めが効いたとき、相手は手元を上げたり、あわてて出てきたりします。日頃の稽古では、この原則を頭に入れながら稽古をすることが大切です。

 今回のテーマである「上を攻める、下を攻める」とは単に剣先を上げたり、下げたりすることではありません。充実した構えを維持して、相手に圧力をかけ、その過程でときに上を攻める、ときに下を攻めるという意図を伝えながら打突の機会を見出すことが大切です。

 全日本剣道連盟発行『剣道講習会資料』の上級者に向けての「攻め・崩し」の指導上の留意点において「進退・離合の動作において常に機先を制して技をしかけることができるよう1歩、半歩の間合の駆け引きにも気を抜かないよう留意させる」「進退の動作には充実した気勢を伴うことを自覚させ、止心を戒め泰然自若の進境を練り上げるよう工夫・研究させる」「剣先の働きについて研究し、相手の両眼の中心または左目につけることを基本としつつ、機に応じて相手の竹刀を抑え、払い、張り、捲くなどして自由を奪って打突の機会をつくることを工夫・研究させる」と記しています。

 とても重要なことであり、「機先を制すること」「充実した気勢」を維持しながら、私はこの項目の「間合の駆け引き」「剣先の働き」について工夫・研究を重ねることが大切であると考えています。互格稽古や指導稽古で、原則通りに相手が動くことはなかなかありません。上位の先生方に稽古をお願いしたときは、あれこれ考える余裕もありません。しかし、意味なく技を出していても、時間を無駄にしてしまいます。

 学生と稽古をする際、「いまなぜ、この技を出したのか」など確認、質問をすることがあります。技の理想は無意識で自然に出せることですが、これは考える稽古を積み重ねた上で、発せられるものです。それゆえ、稽古ではよく考え、反省と研究を繰り返すことが必要になります。

 攻める際、重要になるのは、相手がどのような状態になってもらいたいのかを考えることです。攻めて相手の手元を崩したいのか、それとも誘って相手の技を引き出したいのか、その目的によって間合の取り方や竹刀操作を変えなければなりません。次項からは私が日頃、実践していることを紹介します。

面技を基軸に攻撃を考える

 PL学園時代、稽古時間の大部分に費やしたのが面技の習得でした。間合については「我に近く、彼に遠く」という教えがありますが、PL学園の川上岑志先生は、物理的に相手が届かない距離から、こちらは打つことができれば大きな武器になるという考え方で、ひたすら打ち込み稽古を繰り返しました。

 実際、相手が届かない距離から打てることは大きな武器になりました。相手にとっては間合を詰める過程で常に「面を打たれるかもしれない」というプレッシャーがかかります。当然、手元も上がりやすくなるので、そこで小手やときに左胴の機会が生まれました。

 面は、四つの打突部位(面・小手・胴・突き)でもっとも遠い位置にあり、容易に打つことはできません。その面があるから相手は脅威となり、圧力を感じます。それゆえ、平素の稽古では面技の習得に努めることが大切と考えています。

 ただし、面の稽古を繰り返していても技の幅は広がらないので、面を基軸としつつも、小手・胴・突きも満遍なく稽古をすることが必要不可欠です。本番では稽古をしていない技は使えないので、稽古で積極的にチャレンジすることが大切です。

攻めの基本。圧力の強弱を覚える

 剣道は基本の習得と並行して、対人感覚を磨くことが必要不可欠であり、対人感覚の重要な要素が攻めです。「攻め」とは剣道の熟練者でも容易に答えを出すことができないほど深いものですが、これを意識して稽古を重ねないと上達は望めません。

 学生の中には間を詰めることを「攻め」と表現することが多く、そのため私は「攻めは、相手が感じてはじめて成立するものである」との考えから「圧力」と表現します。ですので打突の機会を作るために必要なのは圧力の強弱と考えています。圧力とは気迫や威圧感といった曖昧なものではなく、必ず何かしら身体に現れるものです。例えば構え合ったとき、棒立ちではなにも圧力は感じないものです。少しでも重心が前がかりになれば「打ってくるかもしれない」という気持ちになり、反対に左足に重心がかかりすぎ、居ついた状態になれば、相手は「打てる」と感じるかもしれません。

 圧力をかけるその強弱を意識して「打突したいのか」「打突されたくないのか」相手の状況を分析しながら、「自身の体重バランスの動きによっての相手の反応」について研究を重ねることが大切であると考えています。失敗することも多々あると思いますが、「圧力をかけすぎた」「緩めすぎた」など原因がわかれば、意味のある失敗です。

起こりを最小限に予備動作を悟らせない

 剣道は相手の起こりを捉えて打つことが大切であり、一方で、相手を打つには起こりを悟らせないことも必要不可欠です。「間を詰める」から「打突の準備」そして「打突」では、「打突の準備」が「起こり」と相手にとらわれてしまうことになってしまいます。意識することは「間を詰めながら打突の準備」そして「打突」に繋げていくことです。初心者は打突の準備がパターン化していることが多く「起こり」として相手に捉えられてしまいます。

「間を詰めながら打突の準備」の場面や「打突の準備」から「打突」の場面に時間の変化を加えることにより、相手はいつ打突に来るのかわかりにくくなります。

 剣道は相手の一瞬の隙をとらえる競技です。起こりを悟らせない稽古法として、学生たちに楽しませながら行なわせていることがあります。それは近間で構え、掛かり手が面を打ち、元立ちはその面打ちを避けるという単純なものです。元立ちは面の近くまで剣先を上げた防御態勢をつくっておいてもかまいません。防御態勢をつくっておいても、予備動作がわからないと元立ちは避けることができません。

 剣道は身体の上下動などわずかな動きで、相手に悟られてしまいます。上下動で色をつくって打つ方法もありますが、それに頼ると、予備動作を入れてからしか打てなくなるので、構えた状態から瞬時に打つ方法を身につけることが大切です。

面を意識させて小手を打つ。小手を意識させて面を打つ

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 面を打つには小手を攻めて手元を下げさせる、小手を打つには面を攻めて剣先を上げさせる。さらに胴を狙うには大きく攻め入り手元を上げさせなければなりません。この組み合わせを使いながら、相手を崩すことが上を攻める、下を攻めるということになります。

 その代表的な攻め方が、小手を意識させて面、面を意識させて小手を打つ方法です。圧力をかけつつ、こちらが「面を打つ」、もしくは「小手を打つ」事に意識を向けさせると、剣先が上がったり、開いたりすることがあります。この崩れに応じて、技を選択します。

〝小手先〟という言葉があるように、単に剣先を上下動させるだけでは相手に圧力はかかりません。相手の中心を割り込むような気持ちで間合を詰め、動かすことを心がけます。相手に圧力がかかっているのか、それともいないのか、剣先の攻防で感じ取りながら、技を選択するようにします。相手によって通用する攻め、通用しない攻めもありますが、自分の攻め方を持つことが大事です。

相手の打ち気を利用。剣先の力を緩めて引き出す

 剣道には仕かけ技と応じ技があり、ときに相手の力を利用して、誘い出す技を身につけておく必要があります。誘い出し方は色々ありますが、私はかけた圧力を緩めることで、相手を誘うこともあります。

 正しい動作を身につけるために仕かけ技を中心に稽古をすることは大切ですが、実戦では相手との駆け引きがありますので、駆け引きを通して相手を引き出したり、出ばなを捉えたりする方法を学ばなければなりません。

 面を誘う際は、剣先を緩めます。相手が誘いに乗れば、面を打ち始めますので、引き込みながら出ばな面、もしくは面返し胴を打つ機会が生まれます。

 攻める際、重要になるのは、相手がどのような状態になってもらいたいのかを考えることです。応じ技はとかく相手の技を待って打ってしまいがちですので、圧力の強弱を使いながら誘いだすことを意識します。

攻めの持続は縁を切らないこと。瞬時に相手と向き合う

 攻めは圧力の強弱と紹介しましたが、圧力をかけるには、常に気持ちを切らないことが大切です。地稽古等では一本打っては仕切り直し、また一本打っては仕切り直す状態がときに見受けられますが、これでは本番で気力が続きません。

 昇段審査は制限時間内、常に緊張感を維持しなければ、審査員に評価される立合にはなりにくいことは周知の通りです。では、平素の稽古でなにを心がければよいのかというと、ありきたりですが、不用意に相手と縁を切らないことです。

 技の稽古は2本1セット、もしくは3本1セットで交代しますが、技を出した後、安易に気持ちを抜いていないでしょうか。縁を切らない一つの方法は、打ち終わりから間合を切って中段の構えまで気を抜かないことです。

 例えば出ばな小手の稽古であれば、小手を打ったら瞬時に相手に身体を寄せ、元立ちに引き技を打たれないように、間合い切りながらいつでも打てる体勢で中段の構えになります。剣道は上達を実感することがなかなかありません。普段、やるべきこを整理し、それができていたかを確認し、毎日、コツコツと積み重ねることが大切と考えています。

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