2025.10 KENDOJIDAI
構成＝寺岡智之
撮影＝西口邦彦
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第23回全日本選抜八段優勝大会において、2度目の出場で決勝進出を決めた井口清教士。前回大会は試合中にアキレス腱を切る大ケガを負い、今大会が復帰の一戦だった。「ケガの功名というか、復帰までの1年で自分の剣道を見つめ直すことができました」。これまで国内外の数々の大会で活躍をみせてきた井口教士は、今何を考え、実践をしながら剣道と向き合っているのか。井口教士の今を聞く―。
井口 清教士八段
初出場の八段戦でアキレス腱断裂
ケガの功名で剣道の転換を図る
昨年、初出場を果たした八段戦において、アキレス腱を断裂するケガを負いました。あれほどのケガをしたのは剣道人生ではじめてのことで、多少の動揺もありました。ちょうど埼玉県警を辞して流通経済大学に勤めはじめた時期でもあり、かかりつけの医師もおらず、途方に暮れたことを思い出します。
友人のツテで信頼できる医師を紹介していただき、その医師からは手術をするか自然治癒にするか決めてくださいと言われ、再断裂のリスクが低い手術を選択することになりました。
手術後、固定具なしでも歩けるようになったのは3か月が経ったころでした。稽古に復帰するまでには半年の期間を要しました。もちろん最初から全開で稽古というわけにはいかず、自分の体がどう動いていたかを確かめるぐらいの気持ちで基本稽古からスタートしました。
復帰後、目標にしたのは八段戦への出場です。選抜大会なので選んでいただけなければ出場は叶いませんが、もし選んでいただけるなら、ケガを感じさせない試合を披露したいという気持ちでした。結局、医師から試合出場のOKがでたのは年明けの2月。その直後に八段戦の出場連絡が来ました。
復帰してからの半年間、稽古をしながら感じていたのは、ケガ前と同じような動きで試合をするのは無理だということです。以前であれば、遠間からでも届くと感じれば思い切って跳び込んでいましたが、実際のところそれは怖くてできません。ですから、ケガ後は以前よりも間合を詰めることを意識していました。これがケガの功名となり、より攻めを重視した剣道へと転換を図れたような気がしています。
これまでは下がりながら相手を引き込んで打つような攻めもしてきましたが、それをしようとすると前に出るときにアキレス腱に負荷が掛かりすぎてしまいます。もっと基本的な部分では、一足で跳ぶことさえ怖く感じるところがありました。アキレス腱に負荷をかけないためには一足で跳んでいたところを二足で詰めて打つ、引き込むような攻めはせず自分から前に詰めていくことを基本にするなど、攻めの形態は大きく変わっていきました。
どんな相手に対しても稽古は変えない
自分から崩して打つ剣道を実践する
稽古環境については、令和4年から流通経済大学の監督に就任し、それまでの埼玉県警での稽古とはまったく違う環境となりました。
まず、大きく変わったのは目標です。警察官のときも後進の指導には励んでいたつもりですが、大学ではまだ発展途上の学生を花開かせるという大役を担っています。学生をどう育てるかが本分となり、自分は二の次として考えるようになりました。
ただ、そんな中でも八段として、自己の向上に努める義務があります。稽古では学生にまじって基本稽古をすることもありますし、学生相手であっても一回一回の稽古に課題と目標をもって取り組むことによって、どんな状況下であっても実力向上は叶うと信じています。なにより、コロナ禍以降稽古量が減っていた私にとっては、毎日のように稽古ができる環境にいることが、競技力維持という意味においてもなんともうれしいことでした。
現在、稽古で心がけているのは、掛かってくる学生をいなすような剣道をするのではなく、自分から崩して打つ剣道を実践することです。とくに攻めによって相手を引き出し、その出がしらを打つことは意識しています。一概に学生とは言っても、その剣風はさまざまです。型にはまらない剣道をする学生もおり、立ち合ってみると「意外と難しいな」と感じることもあります。私としては、どんな相手であっても稽古の仕方を変えることなく、課題克服に向けて稽古を重ねているつもりです。
「徹底して最後までやり尽くす」
これまでの稽古は間違っていなかった
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