KENDOJIDAI 2026.10
取材=栁田直子
「(日の丸を背負う戦いは)覚悟がなければできません」
日本代表を決める強化選手に復帰してわずか半年。
全日本女子選手権優勝につづき、アジア・オセアニア大会の第1回目の女子個人優勝も成し遂げた。「絶対に打たせない。一方で、自分から攻めていく、勝負すべきところでためらわない」。世界大会で培った経験と持ち前の攻撃力あふれる剣道を武器に、次々と強豪選手を撃破した高橋選手。世界を知る百戦錬磨のなせる業だった。
高橋萌子

持ち前の攻撃力を武器に
初代女王の座を射止める
第1回アジア・オセアニア剣道選手権大会、日本勢の口火をきった女子個人無制限の部で、高橋萌子選手が優勝。昨年11月の全日本女子選手権に続くビッグタイトルを手にした。
選手たちは日の丸を背負う瞬間、「負けられない思い」も共に背負うことになる。国を背負う重責。
圧倒的な強さをもつ、といわれる日本剣道だが、勝負に絶対はない。万全な準備を行なっていてもどうなるかわからないその不安を、持ち前の攻撃力あふれる剣道で断ち切った高橋選手。
今回は初めての国際大会個人戦エントリー。気持ちの作り方に苦慮したそうだ。
「コンバットゲームズで(個人戦の)経験はありますが、皆で強化合宿を経て臨む国際大会(での個人戦)は初めてだったのもあったんでしょうか。その分緊張が大きくて、今回はとくに気持ちをほぐすように努めていました」
自分自身のために戦う個人戦であれば、緊張した時も「負けても仕方がない、大丈夫だ」と自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせているそうだがしかし、今回はそうはいかなかった。日の丸を背負い、日本を代表して戦う。その責任と覚悟があるからこそ、「負けても仕方がない」という逃げ道は、自分の中にはなかった。
「『いやいや、負けたら仕方ないじゃあ駄目でしょう』、と。気持ちづくりについてはよく考えました。団体戦と個人戦でも戦い方は違いますし国内大会と国際大会でもまた違いがあります。それぞれの特徴を考えて技術面でも精神面でも万全な準備をしてきました。外山選手(外山みのり・警視庁。高橋選手にとって法政大の後輩にあたる)が世界大会個人戦に出ていたので、その時の経験を聞いたりもしました」
トーナメント表では、勝ち上がれば2回戦で韓国選手と対戦することになっていた。日本勢の口火を切る女子個人戦で、黒星はつけられない。気持ちが奮い立った。
「私が負ければ、他国の選手が勢いづいて、男子個人や団体戦、ひいては世界大会にも影響があるかもしれません。今までの日本選手が守ってきたものがありますから、負けることはできません。できるだけの準備を重ねてきたつもりでした」
大会会場は足立区綾瀬の東京武道館。中の雰囲気は、国内大会とさほど変わらない気がした。「ホーム」日本の雰囲気が、高橋選手に力を与えたのかもしれない。
「当日はコンディションも良く、リラックスしながらも『いくぞ』という攻撃モードにもなっていて、程よい緊張感がありました」
1回戦は相手が棄権のため不戦勝。2回戦の緒戦は、韓国のパク・シウン選手との対戦となった。「初めての個人戦でしたが、周りを見れば竹中監督をはじめコーチ・仲間たちもいてくれて、すごく心強かったです。だから、チームが明日の団体戦に向けてモチベーションを高められるように勝負をしよう、と思えました。一本一本、甘い技は出せませんから慎重な面はありますが、一方で最初から仕掛けていく気持ちも大切にしました」「絶対に、相手に(打突部位を)触らせない。一方で、自分から攻めていく、仕掛けていく」。勝負にいく、打つ、ということは打たれるリスクも背負う。求められるのは勝負所を確実に見極める力。
ライバル・韓国勢にその力が遺憾なく発揮された。初太刀、いきなりの跳び込みドウで先制。相手が手元をあげる隙を見逃さなかった。まさかの初太刀。観客がどよめく。
研ぎ澄まされた集中力。二本目以降も試合の主導権を握り続け、中盤に跳び込みメン。鮮やかな二本勝ちだった。この後も、世界大会個人ベスト8のキシカワ選手(オーストラリア)らを破り、外山みのり選手との決勝戦を迎えた。
「試合前、外山選手と『またね、(後でね)』といった感じで挨拶を交わしていました。私たちの責任であり、任務であった『日本の完全制覇』をめざしてやってきて、結果的に2人が勝ち上がれたので、まず、『2人で仕事ができた』と思っていました。決勝戦は、外山選手も私も、『ここまで来たら(優勝を)獲る』という気持ちだったと思います。試合中、外山選手の強い気持ちも伝わってきました」
互いに一歩も譲らない激しい攻め合いとなったが、試合中盤、高橋選手が起こりをとらえて小手を決め、第1回大会の覇者となった。
「所属の神奈川県警の先生方・同僚の方々も応援に来てくださっていました。皆さんの存在が力になり、気持ちを入れ直して最後まで戦えました。決勝戦が終わった後、外山選手が悔しさを隠さず涙を流す姿を見て、私も今まで悔しい思いをずっとしてきましたから、気持ちがすごくわかりました。ここまで色んな思いを抱えながら一緒に頑張ってきた仲間でもあります。外山選手には感謝しかありません」
ふたたび日本代表合宿へ
「覚悟がなければ務まらない」
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