インタビュー

神奈川県警察のエース 真田裕行、アジア・オセアニア大会日本代表への軌跡

2026年5月25日
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2026.6 KENDOJIDAI
撮影=笹井タカマサ
取材=栁田直子

真田裕行

さなだ・ひろゆき/平成7年鳥取県境港市生まれ。九州学院中高から鹿屋体育大に進み、卒業後神奈川県警察に奉職。全国警察大会団体1部優勝・個人3位2回、全日本選手権出場など。剣道六段

10年かけてつかんだ
国際大会日本代表

 令和8年5月30日、31日の2日間にわたって、第1回アジア・オセアニア剣道選手権大会が行なわれる(アジア・オセアニア剣道連盟に加盟しているか国以上が参加する予定)。世界大会でしのぎを削っている韓国や近年力をつけているオーストラリアなどの強豪の参加が決まっており、日本にとっては厳しい戦いが予想されるだろう。

 その大会に、神奈川県警察のエース・真田裕行選手がメンバーとして名を連ねた。国際大会に出場するのは初めてとなる。

「平尾泰監督(日本代表男子監督。警視庁主席師範)からお電話をいただいたのは、2月の終わりごろです。『アジア(・オセアニア大会)の出場が決まった』『これからチームの一員ということで、頑張ってほしい』といったお言葉をいただき、頭が回らず、『ありがとうございます、これからよろしくお願いします』とお返事するのが精いっぱいでした」

 名だたる選手との競争の中、自分が選ばれるかどうかは正直不安もあった。しかし、平尾監督からの言葉で覚悟が決まった。やるしかないではないか。

「監督からの電話で、腹が決まりました。日の丸を背負うわけですから」

「日の丸を背負って立つ」。夢が現実になった瞬間、その重みをよりリアルに感じたからだろう。喜びよりも先に来たのは責任感だった。日の丸を背負って立つ重みは、なった者にしかわからない。

 真田選手が初めて日本代表候補の強化選手として呼ばれたのは、鹿屋体育大在学中(3年生の時)。

「初めて強化合宿(強化訓練講習会)に呼んでいただいた時は、すごい実績をもつ選手ばかりの中で自分がなかなか目立てていないジレンマがありました。まだまだ実力も足りず、『仕方がない』という気持ちと、思うように先生方にアピ―ルできない自分が歯がゆかったことを覚えています」

 後輩や同期が第17回世界大会(2018年)、第19回世界大会(2024年)で活躍する姿を見て、頑張ってほしい反面、悔しさもあった。「実力をつけて結果で示すしかない」と、決意をあらたにした。

 昨年度は全国警察大会団体で年ぶりに神奈川県警察が優勝したが、予選リーグ、値千金の一本でチームに流れを引き寄せたのが真田選手だった。個人戦でも3位入賞。警察剣道の世界で「真田裕行」の名前を存分にアピールした。この1年の試合結果も、選手選考に影響したことだろう。

「全日本選手権に出られなかったこともあって結果について満足はしていませんが、警察剣道の世界に入ってここまで成績を残した年もなかったので……」

 まだまだ成長の過程だ、という表情を見せた真田選手。しかし、「アジア・オセアニア大会出場」という一つの成果は、自信にもつながったことだろう。

「選ばれたことは自信になりましたが、あくまでもここは通過点。ゴールではありません。平尾監督、寺本将司コーチ、内村良一コーチからも『通過点だ』とお話があり、その通りだと思いました。チャンスをいただいたからには活躍して、日本優勝の原動力になりたいです」

 真田選手は団体戦にエントリーされた。今はただ、日本チームの優勝に向けて、貢献することのみ考えている。いよいよ、国際大会デビューだ。

発想を柔軟にすることが
創意工夫で大切だと感じた

 真田選手は今から10年ほど前から強化訓練講習会に呼ばれるようになったが、「当時は、強化選手の中でなかなか目立てていなかった」と振り返った。今回のアジア大会の選出に至るまで、真田選手が強くなるために取り組んできたことは、一体何だったのだろうか。

「私の場合は、先生方からいただいたアドバイスを、『自分に合う、合わない』と考える前に、まず実行することを心掛けてきました。それが、自分にとってプラスに動いたと感じています。私は自分で言うのもなんですが、特徴的な剣道をしています。その中でいただいたアドバイスをもとに、自分の剣道に合うようアレンジして取り入れ、落とし込むようにしてきました」

 所属の神奈川県警察や強化訓練講習会では先生方から助言をいただく機会がある。一流の先生方からの第三者的な視点は常に参考になるものだ。だからこそ、まずは実践してみることが大切だと考える。一つの教えをこなすことに終始せず、自分なりにその教えをかみ砕き、さらに創意工夫を重ねる。

「試合では、必ず有効打突を打たなくては勝ちを得られません。そのために、有効打突までの過程をいろいろと試行錯誤して自分に合う攻め方、打ち方、試合展開などを必ず考えなくては目的を達成できないので、しっかり考えることが大切だと思います」

 たとえば、面打ちであれば「剣先を押さえる」「剣先を払う」「竹刀操作をあまりせず、足だけで

攻めてみる」など様々な攻め方・打ち方を試し、「自分に合う・合わない」を確認していく。

「人には持って生まれた特性があるので『合う・合わない』はありますが、自分の可能性を広げるために、色々と挑戦をし続けたいと考えています。このような考え方は、九州学院中高でお世話になった、米田敏郎先生からいただいた教えです。新しい発想を生み出すこと・自分を変えていくこと、このことを常に頭に入れておきたいと考えています」

 真田選手の、プレイヤーとしての強みについても聞いてみた。

「良い意味で捉えていただきたいのですが『空気を読まないようにする』のが得意だと思っています。相手と竹刀を交えている時、緊張をしているのに『していないように見せる』などですね。九州学院時代は『(剣道でも、私生活でも)常に空気を読みなさい』と言われていたのですが(笑)、空気を読むことを学んできた中で、『あえて空気を読まない方がうまくいく』ことも学びました。そうしたバランスの良さを大切にしています」

剣道人生を変えた九州学院の6年間

 真田選手は鳥取県境港市生まれ。3人兄弟の末っ子。五つ上の兄二人(泰希・浩希)は双子で、兄についていく形で自然と剣道を始めた。境港松濤館は、足立柳次選手(埼玉県警察・全日本選手権ベスト8)など輩出した、強豪道場だった。

「始めたのは4歳だったので、剣道は小さい頃から生活の一部になっていました。両親は学生時代バレーボールをしていたのでスポーツに対する理解があり、私たち兄弟を熱心に応援してくれていました。母喜代美は負けず嫌いで、大会になると『あの子に負けるな』と、常に励ましてくれました」

 父・恭輔さんは、仕事の合間を縫って車を出し、さかんに大会へ連れて行ってくれた。

「小学生の時は、同学年でメンバーが組めないくらい人数が少なかったので、個人戦だけでも、と様々な大会へ遠征してくれました」

 昇龍旗や神武館旗などの少年大会に出場し、上位進出したことが、真田選手の剣道人生のターニングポイントになった。小学6年生の時、九州学院中への進学を打診されたのだ。

「一度電話をいただいて、それで車で熊本まで行き、練習に参加させてもらいました。男子部員が40人くらいいたと思います。私が所属していた道場は、同級生が私と女の子の2人でちょっと寂しかったので(笑)、そのスケールの大きさを見て『ぜひここでやりたい』と」 九州学院の稽古環境が、真田少年の心をわしづかみにした。11歳で鳥取から熊本へ。学びの毎日だった。

「九州学院で6年間、米田先生・〆一司先生からご指導をいただいたことが、今の私の土台となっています。米田先生の教えは、それを実践すると必ず良い結果を得ることができました。当時は米田先生のすごさに圧倒されるばかりでしたが、今思うと、私たち生徒のことをよく見て、理解をして下さっていたからではないかな……、と思います」

 米田先生の言葉は、当時の真田選手にとって絶対的なものだった。そう思わせられるほど、予言のように先生の言葉は当たった。

「当時の先生は、指導に自信をもって接しているように見えました。それがすごく印象に残っています。先生のおかげで、技術もそうですが、人間的にも成長させていただいたと思います」

 米田先生のご指導のもとみるみる上達し、中学3年生では全中団体優勝、高校では春夏連覇の偉業を達成した。剣道人生の転機となった6年間だった。

「今でも、時々電話でアドバイスをいただいています。先生からは『もっと電話してきなさい』と、忙しいのにいつも教え子を気にかけて下さって、頭が上がりません」

考えをシンプルにまとめて
最高の状態で試合を迎えたい

 いよいよアジア・オセアニア剣道選手権大会を1か月後に迎えるが、今の心境は。

「今はもう、気を抜かないこと、そしてこの大会をゴールではなくチャンスととらえることです。監督・コーチの期待に応えられれば、来年の世界大会へのチャンスもまた生まれると思います」

 大会を万全の状態で迎えるために、「良いことしか考えていない」ようにしている。

「『相手との攻め合いで自分の有利な攻め・展開をつくれている』『一本を取って波に乗っている』などですね。気持ちが乗ることも大切ですし、そのようなポジティブな状態だと、『次はこれをしようか』といった、次に準備すべきことが思いつきやすいです。反対に、打たれる・攻められるといったネガティブなイメージを持つと、どうしても体がかたくなって発想も浮かびにくいので……」

 また、良い結果になることを考えながら毎日を過ごしていると、当日までに考えが落ち着きシンプルな気持ちで臨めるのだそうだ。

「あれこれ、よくないことを考えている時というのは、大体複雑に考え過ぎていると思います。シンプルになれると良いのかな、と。大会当日はどのポジションであっても、仕事をしっかりできるように、活躍できるように万全の準備を整えます」

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