稽古方法

本番の準備(岩切公治)

2026年6月15日

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2026.6 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦

剣道指導者を養成する国際武道大学は、剣道を正しく求めていく筋道として正しい構えの習得に重点を置いている。緊張感が極限に達する試合等で平素の力を出し切るには上手に掛かる稽古を繰り返すことで、打突の機会や間合を身体で覚えることが大切だ。

岩切公治 教士八段

いわきり・きみはる/昭和41年宮崎県生まれ。高千穂高校から国際武道大学に進み、卒業後、同大学の教員となる。主な実績として、全日本選抜剣道八段優勝大会や全日本東西対抗大会、国体、全国教職員大会、全日本都道府県対抗大会等に出場。現在は国際武道大学教授、剣道部監督を務める。

気剣体一致の打突
発声を意識してキレをつくる

 剣道は優れた技術を持っていても、それを出し切るだけの精神力を持っていなければ本番で平素の実力を発揮することが難しくなります。私も幼少より試合に出場し、悔しい思いをしてきましたが、本番で力を出し切るには、ありきたりの言い方になりますが、平素の稽古をどれだけ真剣味を持って正しさを追究して取り組むことができるかに尽きると思います。

〝正しさ〟とはまずは教本通り、教えられたこと、学んだことを素直に実践することです。その積み重ねが、本番での有効打突につながると考えています。本番は逃げ出したくなるくらいの緊張感が生まれますが、そこを乗り越えなければ勝利には結びつきません。それゆえ、平素の稽古で本番を意識した緊張感をどれだけつくることができるかが大切になると考えています。それが本番に向けての準備です。

 緊張感をつくる方法は色々あると思いますが、ひとつの方法として、学生にはしっかりと声を出すことを指導しています。「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、充実した気勢は有効打突の要件の一つであり、気勢が鋭いと技に勢いが出ることは周知の通りです。

 有効打突は、気剣体一致が必須ですが、稽古では打突時に発声が伴っていないことも多々あり、昨今の流行なのか打突後に声を発することもあり、これでは本番でだれもが認める有効打突を打つことはできません。

 よって素振りから有効打突の要件を満たした発声を行ない、打ち込み、切り返しもしっかりと声を出すことがまずは大切です。とても単純で簡単なことかもしれませんが、1回の稽古で気を抜くことなく行なうとなると、心身ともに疲弊することが実感できると思います。

上掛かりの稽古が不可欠
本番は乗り越える力が必要

 剣道が強くなる筋道というものは、基本稽古の繰り返しにあることは間違いありません。しかし、それだけでは実戦にはつながっていきません。基本稽古であれば相手は動きませんが、地稽古や試合、審査などは、当然相手もこちらを打とうと思い、さまざまな戦術を試みてきます。そのために、基本と実戦をつなげることが重要であり、それを作っていくのが、上手に掛かる稽古だと私は考えています。先生方に掛かる稽古において、基本で身につけたものを、圧力がかかる中で発揮し、応用動作として本当の地力をつけていくのです。これを実施しなければ、基本のための基本稽古で終わってしまいます。

 本学でも、我々指導者によく掛かってくる者は、4年間を通じて成長が良く見えます。上手の先生方に掛かる経験を多く積むことなしに、成長が期待できない所以です。

 私は宮崎県延岡市にある延岡修道館で竹刀を握りました。館長は現在、日章学園高校剣道部監督の甲斐修二先生のご尊父である甲斐富嘉先生です。甲斐先生は毎回必ず面を着けて子供たちと稽古しました。実際に面、小手、胴の打突部位を打たせ、間合や機会などを身体で覚えさせ、いわゆる〝打ち味〟を身につけさせました。

 上手との稽古は、精神的に負荷がかかり、苦しい稽古です。しかし、逃げずに先生方の剣先を割って入るような気持ちで打ち込むことを繰り返すと、同格で稽古をしたときに、苦しい気持ちが薄れ、機会と感じた瞬間に素直な技を出せるようになります。

 現在、剣道部の監督として学生と稽古をする機会をいただいています。甲斐先生から教えていただいたこと、高千穂高校時代の吉本政美先生との地稽古、さらに国際武道大学入学後、初代主任教授小森園正雄先生をはじめとする指導陣の先生方からつけていただいた稽古を、次代の学生たちに受け継ぐべく稽古に取り組んでいます。

 次項からは、稽古に緊張感をつくるために自分自身も実践していることを紹介したいと思います。

臍を正対、左半身が安定した構えを実戦でも維持できるか

 剣道を始めたとき、最初に習うのが構え方です。竹刀の握り方、足の踏み方などの身構えです。私の考える構えとは、まず中心を崩さないことです。一般的に〝構えがしっかりしている〟との評価は、とりわけ左手の備えが崩れていない状態です。

 相手と対峙したときもこの構えを極力崩さないようにすることで、正確に技を出すことができます。悪い構えとしてとくに多いのが、臍が横を向いてしまうような構え方です。「不離五向」の教えがある様に、剣先・臍を相手に向けていれば、身体が開かず、腰が入ると思います。そうすることで、中心を割るような正しい打突に繋がっていくと考えます。

 一人稽古で鏡に向かって構えたとき、臍が横を向いていることはまずないと思いますが、実戦で相手と攻め合い、打ち気が強くなると腰が引けて、だんだん腰が開いてしまうことは往々にしてあります。足幅が広がり、無意識のうちに前傾姿勢になっているのです。

 緊張感が高まった本番で、左手の備えが崩れていない状態をつくり、そこから技を出せるかが、課題になると考えています。

竹刀をまっすぐに振り上げ、まっすぐに振り下ろす

 実戦で相手と対峙したとき、力むと竹刀を握った両手のバランスが崩れ、まっすぐに振り上げ、まっすぐに振り下ろすことができなくなります。だれもが経験していることだと思いますが、見事な有効打突が決まったときは、攻めが効いていて、力みなく技を出せています。このような技を出すためにも日頃から素振りを励行することが大事です。

 相手と対峙し、打ちたい気持ちが強くなると、上半身に力が入りやすくなります。気合いを入れることは大事ですが、力が入ると円滑に動くことが難しくなります。素振りは下腹部に力を入れて構え、一挙動で振ることが、実戦での有効打突につながります。一挙動で面を打てるようになれば、相手に余計な隙をみせることもなくなりますし、打突の好機を一瞬にしてとらえることが可能になります。一挙動の素振りの要点は、まず右足でしっかりと攻めることです。左足は動かさず右足で攻めながら振り上げ、左足の引きつけを意識しつつ一気に振り下ろしていきます。

攻防は、剣先で相手をつかまえる感覚を大事にする

 剣道の有効打突は中心を制し、そこに生まれた隙に応じて技を出すことが原理・原則です。こちらが攻めて、相手の剣先が下がれば面、突き、剣先が上がれば小手を打つ機会が生まれます。

 攻防では中心を攻めて崩すことが大事ですが、打ちたい気持ちが強くなると、相手の剣先を避けながら打つようになりがちです。このような打ち方では、打突部位に当たるかもしれませんが、審判員や審査員を納得させる打突にはなりにくいと考えられます。

 本学の学生には攻防の際、なるべく相手の竹刀に触れおき、剣先で相手をつかまえる感覚を大事にするように指導しています。表鎬を相手の剣先にすり込ませることで相手の剣先は中心から外れます。相手が下げたり、開いたりしても、こちらの剣先は相手の中心から外さず、優位な状態をつくるようにします。

 このとき大事なのは左拳で中心を取り、構えをなるべく崩さないことです。間合は足で図ることが大事なのはだれもが知るところですが、焦ると右手中心で竹刀操作をしてしまいがちです。構えを崩さないことに固執すると居つきにつながるので、力みをなくし、左手を正しい位置に納めることを意識します。

技を出す過程を大事にして最短距離で打ち込む

 基本稽古で大事なのは元立ちと掛かり手が一体となって気を張った内容をつくることです。私が学生の元立ちをする際、合気となって緊張感をつくり、充実した気勢で打ち込ませるようにしています。学生同士でもそのような気迫や緊張感をもって行なうことが大事で、互いに中心を取り、掛かり手は自分が攻め勝った状態をつくってから技を出すことを指導しています。

 このとき大事なのは繰り返しになりますが、構えです。左拳が納まった構えをつくります。左拳が動かないということは、実戦において攻めが利くことにもつながります。左手が納まっていれば瞬時に技を出すこともできます。

 間合を詰め、左拳はなるべく動かさずに剣先を相手の剣先にすり込ませていき、中心を取り、充分な状態をつくって打ち込みます。この感覚を稽古で身につけます。

 面打ちの場合、遠くに跳ぼうとするとどうしても姿勢が前傾するので、自分が崩れずに打てる間合をしっかりと把握することが大切です。実戦では打ち急ぐあまり、届かない間合から面を打ちにいき、空振りしてしまうことがあります。腰で腹を押し出すような感覚で打ち切ります。

打てる構えを極限まで維持。機会を捉えて打ち切る

 基本稽古では伸び伸びと技を出せていたのに、地稽古になるとたちまち技が出せなくなってしまうことが往々にして起こります。本番は「負けたくない。打たれたくない」という気持ちが生じ、それが力みとなり、自在に技を出すことが難しくなります。

 力みがあると機会に応じて技が出せなくなるので、地稽古等では力まずに技を出せる構えをつくることを課題として臨むことも有益です。剣道では、技を出すまでの過程が大事だと言われていますが、夢中になるとただ打つことだけを考えてしまいがちです。しかし、それでは自分が正しく技を出せていたのかを検証できないので、技を出す直前まで構えを崩さないことが大切です。崩れない構えが相手に圧力をかけ、打突の機会を生むことになります。

 また、本番で自在に技を出すには、「誰よりも稽古をした。準備をした」という自信が必要です。自信が心の余裕をつくります。その為には、平素の稽古で、だれよりも上手の先生にお願いし、緊張感に満ちた稽古を繰り返すことが大切なことです。

合気をつくって引き出す。元立ちの時間を大切にする

 前述したように本番で力を発揮するには、平素の稽古をしっかりと考えて取り組むことが大切ですが、最後にとくに注意したいのが元立ちを務めたときの心構えです。おおむね稽古は2人1組となって行ない、切り返しや基本稽古では交互に元立ちをつとめます。

 このとき、元立ちは合気をつくり、掛かり手を引き出すような気持ちで務めなければ、ただの打ち込み台になってしまいます。仮に30分間、切り返しや打ち込み稽古などの基本を行なったとしたら、分は元立ちを務めることになります。元立ちを務めるときこそ気を張り、掛かり手を引き立てる工夫・研究をすることが大事です。

 面を打たせる場合は、わずかに剣先を開きます。また小手はわずかに剣先を上げて隙をつくるようにします。いずれも合気をつくり、隙をなるべく小さくして打ち込ませます。

 冒頭で甲斐先生の引き立て稽古を紹介しましたが、私も甲斐先生を見習い、学生の打ち込み稽古を受けるようにしています。実戦に通じる打突の機会や間合の習得は、上位者が稽古で教えることで身につくので、なるべく時間を割くようにしています。

 本学で剣道を学んだ者は教員や警察官、刑務官となる者はもちろんのこと、少年剣道等の地域社会において指導者となっていることが少なくありません。指導者は剣道を正しく継承することができなければならず、ただ勝つことを教えるだけではいけません。正しい元立ちができなければなりません。

 開学以来、初代主任教授小森園正雄先生(範士九段)を始め、佐藤清英先生(範士八段)、石田稔先生(教士八段)、岡憲次郎先生(範士八段)という大家の先生方に稽古をお願いしていました。私もいつしか年長者の一人に入ってしまいましたが、蒔田実先生(範士八段)、井島章先生(範士八段)が稽古に来られたときにはつとめてお願いするようにしています。

 学生たちには事あるごとに、勝ち方を求めていくことを伝えています。構えを崩さず、相手を攻め崩して打つ。これが剣道の本筋であり、国際武道大学の開学以来の根幹です。

 剣道は目に見えない〝気〟というものをとても大切にしています。言葉では表現しづらいですが、相手と向き合い、気を合わせて稽古を繰り返すことが質の高い稽古につながると考えています。

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