稽古方法

日本一を獲るための準備力(野村洋介)

2026年6月29日

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2026.6 KENDOJIDAI
取材=栁田直子
撮影=西口邦彦
*本記事に掲載された画像の無断転載・使用を固く禁じます。

野村洋介選手は昨年まで神奈川県警察剣道特練員として17年間第一線で活躍してきた。
その中で実感したのが、「相手の動きに対し、いつでも対応できる」剣道を実践すること。この理想を実現するために、本番までの準備が大きなカギを握るという。

野村洋介 錬士七段

のむら・ようすけ/平成2年群馬県館林市生まれ。本庄第一高を卒業後、神奈川県警察に奉職。全日本選手権大会出場、全国警察大会団体1部優勝2回2位2回3位3回・個人2位1回3位2回、国スポ出場、全日本都道府県対抗大会出場、全日本東西対抗大会出場など。現在、同警察剣道特練コーチ。

 私は高校卒業後神奈川県警察に奉職し、昨年度まで17年剣道特練員をつとめました。その毎日の中で、宮崎正裕先生(範士八段)からいただいた「準備が大切」という教えを常に意識してきました。

 試合は「始め」の合図から始まるのではなく、その前から始まっている、というお言葉がとくに印象に残っています。つまり、試合が始まる前の段階で、どれだけの準備ができているかどうかが勝敗の鍵を握るということです。

 そのことを学び始めた若手の頃は、「サプリで栄養を補助すれば次の日も頑張れる」「試合前の稽古で集中すれば本番も大丈夫」と、安直な考えでやっていたところがありました。

 ただ、年齢を重ねるにつれて、「本番で日頃からの稽古の成果を発揮できるか」にフォーカスを当てるようになりました。とくに「常にいつもの自分で試合ができるように」を心がけるようになりました。日頃から本番を想定し稽古を行なうことでそれらが身に付き、自然と試合の準備が整えられるのが理想です。

 どうしても、試合前になると「あれもできるように」「ここができていない」と、課題や準備をこれでもかと詰め込もうとしてしまう、いわば「プラスの作業をしようとしたくなる」のですが、いざ試合が近づいてきた時にも動揺せず、余計なことをしない、いわば「マイナスの作業」を重視しました。

 例えばですが、竹刀や剣道具の点検、礼法・所作といった基本的な点からの見直しが日頃からできていれば、試合前日での準備や当日本番も滞りなく準備ができます。

 食べ物・飲み物についても同様です。日頃から油物は控え、すぐにエネルギーに変わる白米などの摂取の仕方なども勉強しました。1年を通して試合前や鍛錬を重ねる時期などがありますが、その時々に合わせて必要な食事を考えていました。

 稽古でも同じように、その時々に合わせて必要な行動をとるようにすると、それがルーティーンとなり、それ自体が自信につながります。私の場合は、普段の行動の中でのルーティーンを定めるようにしていました。細かなことですが、このような行動が心の安定につながり、いざ試合が近づいても「いつでも戦う」と腹を決めて臨むことができました。本当に細かいことですが、会場の床の状態などにも留意していました。エアコンの入り具合、当日の湿気なども床のすべり具合に影響してきます。

 細かいかもしれませんが、このような点を心掛けることは、「相手の動きに対し、いつでも対応できる」剣道を実践するために大切なことであると思います。

上段から最短距離で最速の片手面を打つ

 私は普段、上段を執っています。

 上段は天の位、火の構えと言われます。両腕を上げて上から圧倒した攻撃的な構えであり、また、胴・突きをさらけ出すリスクも背負っています。

 主に遣う片手技がスムーズに出せるかどうかは重要なポイントの一つであり、そのために常日頃から、左半身の遣い方に留意し、いざ、打突の好機が訪れた際に的確に相手の打突部位をとらえられるよう心がけています。理想は「刃筋の通った、最短距離で打つ片手面」です。

 私自身、左手首・左腕・左肘・左肩・左の肩甲骨、と意識しながら振るようにしています。そのため、左上段に構えた時の左拳の位置が振り下ろしやすいことが大切だと考えています。私の場合は左前額部の拳1つ・2つ分程度前で構えるように意識しています。構えた時の左拳が高すぎても低すぎても、左手首、左腕、左肘、左肩、左の肩甲骨のスムーズな動きができず、刃筋が通りません。面を打った際の到達点から逆算して、どのような軌道を通るかをイメージしながら振るとスムーズに腕を動かせると思い実践しています。左拳で剣先を意識すると力まず振れると感じています。また、振り切った時の手の内の締めについて、剣先が上に跳ねるように、手の内を入れ過ぎない・刃筋を意識するように心がけています。小指でしっかり握って手の内を締めないと、剣先が右に逸れていき、体もまたそれに流されてしまいやすくなります。左で打つことを意識しないと、冴えのある一本にならないと感じています。

 片手技を習得するには、ある程度片手で振るための筋力が要るため、それ相応の稽古量を必要とします。左半身に負荷がかかるので、日ごろからのストレッチ・マッサージも大切で、稽古前と言わず、気づいた時に腕や関節を伸ばしています。

面を打った際の到達点から逆算して、どのような軌道を通るかをイメージしながら片手面を打つ

素振りの時の足遣いが打突につながる

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 足遣いについては、素振りの段階で学ぶことが沢山あります。一般的に上段は大きく構えるイメージですが、諸手技や鍔競り合いからの引き技は右足で踏み込むので、時として「右足を出す」「左足を出す」といった素早い対応が求められます。私自身、若手の頃は諸手技があまり遣えなかったのですが、片手技だけでは相手に研究をされてしまいます。それで諸手技も勉強するようになりました。

 その過程の中で、行なったのが「3種の足遣いの早素振り」です。

①右足前・左足後ろの早素振り

②左足前・右足後ろの早素振り

③振り上げた時に右足を前に、振り下ろした時に左足を前に前後させる早素振り

 この3種の素振りを実践してから、以前よりも足遣いをスムーズに行なえるようになったと感じています。体幹のブレが少なくなりました。相手の攻めに対して浮ついた時などは重心がブレやすいですが、そういう時の打突は「相手に向かって真っ直ぐにぶつかる打突」にはならず、結果として「上半身が浮ついた打突」になりやすいと感じています。足さばきを学べば、相手の攻めに対して素早く対応できるようになるので、浮つく・崩れることが少なくなると思います。

場面を想定した調整が本番に生きる

 私は、警察学校卒業後から昨年度まで剣道特練員(昨年度はコーチ兼選手)として17年活動してきました。その中で、試合前の調整では、特定の場面を想定し「その状況下でどのような攻め方をするか」といった稽古をよく行ないました。

 たとえば、私は昨年の全国警察大会では大将をつとめましたが、勝たなければチームが勝てない場面、まったくの五分の成績で回ってきた場面、リードして迎えた場面もありました。大将は勝負を決めるポジションであり、プレッシャーがかかりますが、「特定の場面を想定した稽古」を行なうことで、いつも通りの剣道を実践できたのではないかと思います(昨年度の全国警察大会団体で、神奈川は15年振りの1部優勝となる)。

 全国警察大会団体は、試合時間5分で勝敗が決しない場合は3分の延長戦があります。長い時間を戦う中で疲れてくる場面があり、そこで足を止めさせて打つ意識が必要だと思います。

 たとえば、こちらが追いかける立場であれば相手の守りがかたくなります。とくに片手面は警戒されやすいですが、「こちらの面を竹刀で避けようと手元を上げた瞬間、相手の竹刀の上から面を打つ」意識で、上から面に乗る練習をしました。上から乗ることで、相手の避ける動作が間に合わなくなるためです。

 また、相手がこちらの片手面を嫌がって左足を大きく下げながら避けようとする場面では、右足を出して諸手技を打つこともあります。右足を大きく出して打つため、「相手からする予想よりも大きく前に出てこられて打たれた」かたちになります。相手がどれくらい下がるのか、攻め合いの段階である程度把握する必要があります。逃がさないで確実に打つことも大切ですが、この時、体を大きく出すので体がぶれないように心がけます。体が浮つくのではなく、床にしっかり重心が吸着するようなイメージ(腰が浮つかない)で打つようにしています。

 小手を狙う時は、こちらの面の攻めが相手に利いている場面です。相手が前に出て面を避けている時は、間合が近くなっていることを意識しながら、素早くその場で右足と左足を入れ替えて諸手小手を打ちます。前ページで紹介した早素振りの足さばきがここで生きてきます。左胴を狙う場合は、ここぞという場面で思い切って打ちます。攻めが利いているときに相手が迷った時が勝負どころで、ゆさぶり(攻め崩し)の中で居つきをとらえるイメージを大切にしています。

 上段は片手技・諸手技があり、いずれも間合や攻め方を工夫することで相手の心を揺さぶることができます。そこが魅力ではないかと思っています。私は今年度からコーチとして剣道特練員を指導する立場になります。指導者として、一競技者として、今後も精進してまいります。

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