2022.6 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
「正中線に固執しないようにしています」と語る小田雅義教士。
神奈川県警察剣道特練として長く活躍してきた小田教士は引退後指導者の道を歩み、2021年11月の八段審査で見事合格した。恩師の言葉「中心を取ろうとしすぎない」「譲る気持ちを持つ」ことが合気を学ぶことにつながったという。
小田雅義 教士八段

おだ・まさよし/昭和50年宮崎県生まれ。延岡学園高から日本体育大に進み、卒業後神奈川県警察に奉職。全国警察大会団体1部優勝2位各1回、国体出場、全日本学生大会団体出場・個人出場など。現在、神奈川県警察学校第一教養部術科第二課勤務。
「正中線」は、身体の中心を通る縦のラインのことを示します。熟練度が高くなればなるほど正中線に対する意識は高まり、自らは崩れないように、また、相手に対してはこのラインにある左拳や体軸のバランスを崩そうとします。
その行動を「中心を取る」という言葉に置き換えることもできます。正中線は中心を取るにあたって、欠かすことのできない要素です。
しかし、正中線については意識をし過ぎないようにしています。もちろん、中心を取ることは打突を一本に導くために大切なポイントです。ただ、「中心を取らなければ」という強い気持ちがややもすると執着につながり、かえって力みが生まれ、隙になるのではないかと考えています。
力みは、「竹刀の握り」、とくに右手にあらわれます。中心を取る、取ると考えていると思わず握りにも力が入るのではないかと思います。強く握っているということは、一度力を緩めないと打突に移行できません。また、その力を利用されて(居着く、手元を浮かせるなど)打たれる可能性があります。
そのため、(これはあくまでイメージですが)中心を制している値をマックスで10とするならば、こちらで全てを制するのではなく、6割は相手に譲る気持ちを持つようにしています。その位の方が、かえって中心を取ることに繋がるのではないかと考えているためです。10すべてをこちらで取ろうとすると、相手は「中心を取られている」と警戒してすぐによける・さばくなどしますし、逆にこちらの動きを利用されることもあります。
この考えをするようになったのは、以前、三宅一先生(元神奈川県警察学校術科参与)から「四分六(しぶろく)の構え」の教えをいただいてからです。
「勝負をする上では『俺がやる』という気持ちも大切かもしれない。しかし、譲り合う気持ちをもつことも大切。日常生活に役立ち、さらには剣道にも反映されるのではないか」というお話でした。
中心の取り合いをする中で、6割を相手に譲ると、やはり打たれることが多くなります。しかし、満貫に打たれることは悪いことではありません。例えば、正しく面を打ったから、正しく胴に返されたのではないかと考えるためです。
打たれながらも、なおもその気持ちを崩さずに攻め合う稽古を心がけると、少しずつですが気持ちに余裕ができます。相手が5から6割、こちらが5から4という割合で中心の取り合いをしていると、良い緊張がピンと張り詰め、ぎりぎりの攻め合いをすることになります。
この状態が「合気」につながっている感覚を覚えました。相手も、こちらも「中心を取れたのではないか」と感じ、相打ちの勝負を行なうことができます。この状態をつくるために、「四分六の構え」を意識しています。
私は以前、神奈川県警察の剣道特練員として日本一をめざして稽古をしていました。勝つことが求められており、「勝ちたい、打ちたい」気持ちが強く、「間合に入ることが攻め」だと思っていた節がありました。
しかし、そのような気持ちが強ければ、当然攻めも強くなります。こちらが中心を取る力が強すぎれば相手は逃げます。当時「攻めが強すぎる」というご指導はたびたびいただいていましたが、なかなか解消できず、結果勝負がつかないケースがありました。「四分六の構え」の教えをいただいてから、正中線への意識が変わり、剣道も変わりました。相手に譲る気持ちを持つことも、また「剣道」ではないかと感じています。
正中線を意識しすぎず、「面」で相手を攻める
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