2026.8 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
構成=土屋智弘
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中心の攻め合いで主導権を握りつつ、上下の攻めを展開し、打突の機会を生み出す。神奈川県警察剣道副首席師範を務める辻山教士に攻めの考え方と理想とする剣道について伺った。
辻山和良 教士八段

攻め合いで主導権を握り
上下の攻めを活かす
今回は「上下の攻め」というテーマをいただきましたが、高段位になればなるほど、現象面として表れる技術以上に、目に見えない心の部分やかけ引きが大切になります。そして最終的には、形として顕さずに相手を崩すことが理想であると考えています。
そこで私が大切にしているのが、「一眼二足三胆四力」の教えです。まずは相手の動きや気配、機会を見る力、すなわち察知力や洞察力が重要になります。その上で、間合や攻防を支える足さばき、恐れずに入る胆力や決断力、そして筋力や体力がものを言うと思います。
上下の攻めを活かすためにも、まずは構えて中心を取り、主導権を握ることが大切です。私は身長が186cmと高いため、その利点と欠点を把握した上で構えを執るようにしています。
一般的には、相手の喉元や左目に剣先を付けるとされています。しかし私がその位置に付けると、相手からは手元が浮いて見え、小手を狙われやすくなります。そこで相手の鳩尾付近に剣先を付けるようにすると、相手には上から下へ攻め付けられているように感じられるため、より攻めが効くように感じています。
上からの攻めでは鎬を意識する
打突の機会は相手によって千差万別です。特に実力差のない相手を攻める場合、攻め切ることで相手を居着かせ、機会を生み出すという単純な展開にはなかなかなりません。
その際に重要となるのが、相手を引き出すような攻めです。私は身長があるので、相手が動き出す瞬間の隙、いわゆる出ばなを大切な機会と考えています。その機会を察知し、相手を引き出すために、表鎬を使い、上から擦り込むような意識で攻めます。そうすることで、自分が中心を取りながら、相手の中心を外すことを心掛けています。
ただし、力を入れ続けてしまうと瞬時の打突につながりません。そこは手の内が重要であり、自分の感覚で瞬間的に力を入れますが、強く握り締めるのではなく、手の内に余裕がある状態を保つことが次の動作につながると感じています。
また、竹刀を動かす範囲は小さくし、身幅ほどの操作に留めることが大切です。それだけでも打突部位は空いてきます。逆に大きく動かしてしまうと、自らの中心を崩すことにもつながりかねないため注意が必要です。
表鎬を使って中心を取った後は、相手の剣先より少し下の位置で様子をうかがいます。そして相手が上から抑えてくるようであれば面へ、逆に手元を浮かせるようであれば小手へと、無意識のうちに技を選択して打つようにしています。
私の感覚で表現するならば、相手の手元をぎりぎりまで攻めつけ、打突する際は打突部位を点で捉えるということになります。
心を崩さないことが
理想の剣道へとつながる
理想とするのは、こうした攻めを通じて自らは動じることなく、中心の取り合いを優位に進めることです。そして自らの崩れをなくし、相手の隙を引き出し、そこへ打ち切った打突を繰り出すことだと思っています。
年齢を重ねるにつれて、身体が思うように動かなくなる部分もあります。しかし、だからこそ心の部分を大切にし、「心は崩さない」という意識で日々の稽古に臨みたいと考えています。
私は長年、勝負の世界で剣道に取り組んできましたので、機会があれば試合にも積極的に出場したいと考えています。やはり試合でしか学べないことも多く、その経験は大きな財産になると思っています。
丹田を軸にした構えと手の内づくり
上虚下実の構えを執るには、下腹、いわゆる丹田に力を溜めることが大切です。攻防に移った後もその構えを崩さないために、私が意識しているのは床板などの縦のラインを活用し、それを挟む感覚で足構えを整えながら相手を攻めることです。そうすることで膝頭がやや内側に入り、下腹の充実感を逃しにくくなります。また足裏は母指球で踏ん張る形となり、蹴り足の溜めにもつながります。
さらに打突の際は、丹田から左腰を内側へ入れるように乗せて身体を前へ出すことで、腰始動のしっかりした打突になります。
続いて先ほど述べた表鎬を使った攻め、すなわち相手の剣先を瞬間的な力で抑えたり擦り込んだりする際に大切となる、手の内の感覚を養う木刀稽古を紹介します。木刀で構え合い、一足一刀の間合から相手の剣先を表から張り、自らは中心を崩さずに一挙動で面を打ちます。続いて裏から張り、同様に行います。木刀は竹刀のようにしならないため、張る側にも張られる側にも手元へ力が直接伝わります。そのため力の入れ具合や抜き具合といった手の内の感覚を養いやすく、習得にも効果的だと考えます。
上からの攻めと機会の捉え方
先述したように、私は上背があるため、相手の鳩尾付近に剣先を付けるようにしています。そうすることで、自ずと上から攻め付けているような構えになると感じています。
そして感覚的には、相手を前で捉え、自らの懐に入れさせない間合で勝負することを心掛けています。触刃の間から交刃の間に至る過程において攻め勝つことで、自分に有利な打ち間を得ることにつながります。
私は背が高いことから、よく「遠くから打てていいですね」といったお言葉をいただきます。しかし、あくまで重要なのは攻めをしっかりと効かせることであり、相手に打突の起こりを察知されてしまえば、避けられたり、応じ技で応じられることにもつながりかねません。攻防は紙一重で変化する場面が多く、常にギリギリのところで勝負する意識が大切だと考えています。
続いて打突の機会ですが、上から抑え付けるように攻め、相手が嫌って剣先を下げるようならば、そのまま乗って面を打ちます。逆に手元を上げてくるようであれば、小手に打ち込むことが多いです。
表鎬で制する出ばなの機会
触刃の間から交刃の間、打ち間に至るまでの剣先の攻め合いでは、表鎬を使って中心を取るのが基本になります。相手の剣先に触れている状態では、力の入り具合や動かし方から相手の出方や気持ちを読み取り、次の展開を洞察します。
そこで自分が打てる機会があれば、即座に決断して打突します。攻めが効き、最後まで中心を取り切れていれば、相手の打突動作そのものが隙となるため、そこに乗じます。下で捉えておき、自分がまっすぐに出れば、最短で打突に至ることができます。
その際、「鎬を削る」という言葉が示す通り、裏に回るよりも表で捉えている方が、最小限でコンパクトな打突につながります。小手などの下の技は、私のような高身長の場合、死角となりやすい部分でもあります。そこを狙うと腰が下がったり、剣先を過度に下げる必要が生じ、崩れにつながりかねません。そのため私の場合、出ばなは面で勝負することが多くなります。
同様に応じ技でも、面すり上げ面など上の技が中心です。相手がよほど不十分な状態で来た場合には、返し胴などの下の技を出すこともありますが、稽古ではほとんど用いません。返すため、あるいはすり上げるための稽古法もありますが、基本としては上を攻め、相手と気を合わせ、その起こりや崩れに対して面を打つことを意識しています。この攻めや動作ができれば、他の技にも十分応用が効くと感じます。
心身を崩さず打ち切る剣道を求める
正しい剣道を習得するには、基本に力を入れることがまず第一です。私も基本打ちを励行しており、面打ちを中心に稽古を行っています。打ち切った面を決めるためには、どのような作業や身体の負荷が必要なのかを考えながら取り組んでいます。実戦ではギリギリのところで技を出したり、攻め合いを行うため、その場面でも通用する打ち方を意識して稽古しています。齢を重ねるにつれ、年々身体が効かなくなる面もありますので、それを補う工夫も大切になります。
動きのある動作を起こすには力が必要ですが、自然体のリラックスした状態で行わなければ、崩れにつながりかねません。丹田に力を収め、四肢の余分な力を抜くことが大切になります。
そして実戦で相手と対峙した場合に、その状態を維持するためには、「四戒」に表されるような心の崩れを起こさないことが重要です。心の動揺は、そのまま動作の崩れにもつながります。
八段位の付与基準には「剣道の奥義に通暁し、成熟し、技倆円熟なる者」と示されています。技術的に円熟していることはもちろんですが、「奥義」とはこのような心の在り方にあると捉えています。
正しく構えて中心を取ることはもちろん大事ですが、それだけで相手を崩すことは容易ではありません。そこには表面には現れない、見えない部分が重要になります。自分の心が崩れず、同時に相手の心を崩すことで、初めて打突の機会が生まれ、そこに打ち切った技を出すことができると考えています。
現在、私は神奈川警察剣道副首席師範を拝命しておりますが、結果がすべての警察剣道の中で、常に勝負をしているのが特練員たちです。私も彼らと同じ気持ち、同じ土俵で合気となり稽古をするよう心掛けています。相手を素早く崩し、素早く打つのが彼らの剣道であり、それに合わせて日々稽古をすることで、私自身の鍛錬にもつながっています。





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